【特集】キャンパスにおける大学生協の役割 学生のこと、大学のことを、「誰よりも知ること」で できること。【特集】キャンパスにおける大学生協の役割 学生のこと、大学のことを、「誰よりも知ること」で できること。

1959年に誕生した大学生協。
数ある協同組合の一つとして、60年を超える歴史を積み重ねてきました。
キャンパスにおいては、もはや当たり前の存在となっていましたが、コロナ禍を経て見られるようになった学生たちの意識や行動の変容は、大学生協に対して、いま、新たな変化を求めているのかもしれません。
キャンパスでの大学生協の役割とは、何なのか。学生にとって、これからの大学生協はどういう存在であるべきなのか。
今回の特集では、新たな大学生協の存在意義に迫ります。

取材協力


生活協同組合連合会
大学生協事業連合
専務理事 樽井 美樹子


生活協同組合連合会
大学生協中国・四国事業連合
専務理事 吉山 功一


【コーディネーター】
全国大学生活協同組合連合会
常務理事 白取 義之

誕生以来、常に身近に寄り添い、学生生活を支え続けてきた心強い存在

1959年8月全国大学生活協同組合連合会創立総会(於:千葉勝山)
1959年8月全国大学生活協同組合連合会創立総会(於:千葉勝山)

大学生協は利用者の一人ひとりが組合員となり、出資金を出し合って、協同で運営する組織です。「学生・院生・留学生・教職員の協同で大学生活の充実に貢献する」「学びのコミュニティーとして大学の理念と目標の実現に協力し、高等教育の充実と研究の発展に貢献する」「自立した組織として大学と地域を活性化し、豊かな社会と文化の展開に貢献する」「魅力ある事業として組合員の参加を活発にし、協同体験を広めて人と地球にやさしい持続可能な社会を実現する」ことを自らに課せられた使命として、その誕生以来、さまざまな事業を推進してきました。

いまや全国213におよぶ大学において食堂の利用や商品の購入だけではなく、さまざまなサポートが受けられる大学生協ですが、実際にどれぐらいの学生や教員および職員が組合員として加入しているかご存じでしょうか。もちろん、各大学で多少の差はありますが、その多くは90%台と高い加入率となっています。充実したメニューの学食を安く利用できるのはもちろん、購買の商品や書籍・雑誌・コミック・教科書が割引料金で購入できたり、自動車学校の講習や各種資格の申し込み、資格スクールの受講料が割引になったり、学生総合共済に加入できるなど、学生や大学の教職員の皆さんにとっても、キャンパスにおける毎日の生活からは切り離せないものになっています。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大時からの行動制限がようやくなくなったとはいえ、この3年間で授業形態や登校率、キャンパスでの過ごし方など学生生活そのものが大きく変わってしまった影響が少なからず現れてきているようです。

学生と大学生協の間にある思わぬ距離感、その原因はどこにあるのか

「第1回学生の消費生活に関する実態調査」報告書(1964年8月)
「第1回学生の消費生活に関する実態調査」報告書(1964年8月)

大学生協では毎年、「学生の消費生活に関する実態調査」を行っていますが、大学生協に対する満足度を調べてみると、2023年は「満足」と「まあ満足」で約74%でした。「約7割の人が満足してくれてるからいいよね」という考え方もありますが、考えようによっては4人の学生グループのうちの少なくとも1人は「何となく不満を感じている」ということになります。また、大学生協をどれだけ身近に感じているかに関する調査では、1989年では実に約9割、2019年のコロナ禍前には約7割という結果でした。コロナ禍に入った2020年には約6割にまで落ち込みますが、コロナ禍が明けてその数字が戻ってくるかと思えば、2023年の調査でも6割強程度にまでしか回復していません。

「この事実一つをとらえて、学生と大学生協の間にギャップを生み出しているのはこれだ!と断言できるような状況ではありません。もちろん、コロナ禍はこの現象を加速させたかもしれませんが、コロナ禍以前から実はその兆候はあったと考えるべきなのではないでしょうか」と大学生協事業連合の樽井 美樹子専務理事。続けて「多様化と言ってしまえば簡単ですが、以前は『20歳前後の大学生の生活ってこういうものだよね』といったある種共通する特徴というようなものがあったと思うのです。今でもそういう面はありますが、学生一人ひとりの趣味や嗜好、興味・関心、何よりも価値観が多様化している中で、それに応えて、学生にとって身近な存在であり続けることは非常に難しいと思っています」と現状を分析します。

いつの時代においても調査の結果見えてくる不満は、最初に「混雑」で、2つ目が「メニュー」、3つ目が「価格」、4つ目が「営業時間」と多くが食堂に関することという事実は確かにありますが、「たとえば、値段が高いという声があったときに、値段を下げるためにどうすれば良いかを考えることも大切ですが、むしろなぜ値段を上げる必要があるのかを説明し、きちんと組合員である学生たちに理解してもらうことの方が大切なのではないかと思っています。それをきちんとやることによって、値上げから見える世の中の動きを知ることもできますし、学生自身の学びにつながるとともに、大学生協に対する見方も変わるのではないかと思うのです」と大学生協中国・四国事業連合の吉山 功一専務理事は語ります。

大学生協は、学生たちのこころの拠り所、居場所になれるかどうか

ここで、これからの大学生協を考える上で、ヒントになるかもしれない事例を紹介します。今から21年前、愛媛大学生協では、ある画期的な取り組みが行われました。それは工学部の学生をターゲットとして、工学部の建物の1階に麺類や丼ものといった簡単な食事を提供できるキッチンを備えたミニショップを出店しようというものでした。工学部の学生といえば、朝から晩まで研究に没頭し、食事の時間も満足にとれないといった状況。出店にあたっては、そこまでターゲットをセグメントして大丈夫なのかという危惧もありましたが、いざ出店してみると毎日、約1000人を超える学生・教職員の来店利用があったのです。この「CO-STA(コスタ)」というショップは大いに注目を集め、「大学生協もこんなお店を出店したら良いのにね」といった声がCO-STAを利用していた学生から聞こえてきたという笑い話もあったといいます。

Renewal Shop愛媛大学生協 | CO-STA(コスタ)

CO-STA(コスタ)

CO-STA(コスタ)

カウンターではカレーライス・丼ものなどの簡便な食事を提供。手軽に食べられるおにぎり・パン・カップ麺などのほか、文具・PCサプライなど勉学の必需品も備えています。

また、新型コロナウイルスの感染拡大直前の2019年に山口大学生協が吉田キャンパス内に「FAVO(ファボ)」という複合機能を備えた建物を竣工しました。1階にはカフェテリアとミニショップのある多目的ルーム、2階にはサポートカウンターを兼ね備えた書店とワークショップルームとさまざまな機能を備え、学生はもちろん、一般の方の利用も可能な施設。誰でも利用できるようにサインは日本語と英語の2カ国語表記にし、2階のBookstoreでは英語対応のできるスタッフを配置。施設内ではさまざまな交流が生まれるよう、各所にテラス席を設け、各種交流イベントなども実施していました。

「FAVOの場合、注目したいのはすでにFAVOという名称がブランドとして認知されているということです。カフェがあって、焼き立てのパンが食べられて、ゆったりとくつろいだり、仲間と触れ合えたりできる場所。従来の大学生協の施設とは一線を画す、FAVOはFAVOであり、FAVO以外の何物でもない唯一無二の存在感を放っているんです」と吉山専務理事。学生の学びも、キャンパスの様子も、滞在時間も一昔前とは違ってきている中で、今までのようにただメニューを提供する、ただ商品を並べておくということだけで利用機会を増やすのはすでに限界に達しているのかもしれません。CO-STAやFAVOに共通するのは、これまでの食堂やショップとは異なり、「集える」「交流する」「体験する」がキーワードとして具現化され、学生たちにとってのこころの拠り所、かけがえのない居場所になっていることだと考えられます。

Renewal Shop山口大学生協 | [吉田キャンパス]FAVO(ファボ)

CO-STA(コスタ)
FAVO-Books

CO-STA(コスタ)
FAVO-Cafe

大学や学生のことをもっと知って築く、未来志向の新しい関係

「いま、愛媛大学と山口大学の例が紹介されましたが、どの大学でも同じようにやれば、同じような効果が出るというわけでもありません。もちろん、ケーススタディーの一つとして参考にすべき部分は大いに参考にすべきです。ただ、真に学生にとっての新たな居場所になるためにはどうしたらよいのか、その方法論は各大学の大学生協それぞれにあってよいと思うのです。大切なのは、その大学のこと、その大学の学生のことをどれだけ知ることができ、そのご期待にお応えできるか、そして新しいキャンパスライフの充実に貢献できるかを常に模索し続けることなのではないかと思います」と樽井専務理事。確かに各大学にはそれぞれ異なる歴史があり、学風があり、環境があり、人がいるのですから、そこにある課題も、ニーズも、導き出される解答も違って当たり前です。大学や学生のことを知るというのは、長い歴史を共に歩んできた大学生協にとって、ある意味原点に立ち返ることなのかもしれません。

「大学を知ることで、大学だけではできないことが見えてくる。実際に解決の難しい課題を『大学生協さんで何とかできないか』という相談を受けることがこれまでにも幾度となくありましたし、その大学を知っている私たちだからできるということも数多くあったと思います。ただ、コロナ禍前後から続く厳しい状況の中で、それがより高度に求められるようになってきた。だからこそ、私たちはこれまで以上に大学のこと、学生のことを知り、何ができるかを共に考えていかなくてはいけないと思います」と吉山専務理事は思いを新たにします。

大学との関係性においても、組合員である学生との関係性においても、意見を言う側とそれを受け止めて解決する側という画一的な関係ではなく、互いの対話を通じて共に問題と向き合い、共に解決していく未来志向の新たな関係性の構築が重要なのかもしれません。そうすることでキャンパスにおける大学生協の存在感も高まり、その取り組みも生かされていくのではないでしょうか。