「Campus Life」vol.82


「Campus Life」vol.82表紙

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【特集】ICTの進化がもたらす書籍事業と大学教育の岐路
 

不確実性の時代

全国大学生活協同組合連合会 武川 正吾 会長理事(東京大学名誉教授)
全国大学生活協同組合連合会
武川 正吾 会長理事
(東京大学名誉教授)

現在の日本の政治状況や国際状況を、1年前に正確に予測できた人がいただろうか。私たちはよく「不確実性の時代」に生きていると言う。J.K.ガルブレイスが『不確実性の時代』を語ったのは1978年(原著1977年)のことだが、いまは当時以上に、先の見通しを立てづらい時代になった。

現在、この不確実性に、さらに拍車をかけているのが生成AIの発達である。ChatGPTが公開されたのは、2022年11月30日だった。その翌年、私は全国大学生協連の理事会での挨拶のなかで、まだ「何者なのか」よくわからない生成AIに触れたことがある。当時は、生成AIが参照しているデータが21年9月までのもので最新ではないこと、そして「ハルシネーション(もっともらしい誤り)」が多いといった懸念があった。

ところが、その後の技術の進歩は、当時の不安の多くを大幅に薄めた。他社製の多機能のAIも陸続と出現した。大学生も恐る恐る使い始めたが、今ではキャンパスライフを送るうえでの必須のアイテムとなっている。もちろん、問題が完全に消えたわけではない。しかし、いずれは「それが問題だった」とさえ意識されなくなる時代が来るのかもしれない。かつては文章を書くとき、国語辞典,シソーラス(類語辞典)、グーグル検索などを駆使したものだが,これにAIが加わったということかもしれない。とくにシソーラスの機能に似ている。

一方で、AIに丸投げしたレポートを提出して単位を落とした、といった否定的な話も耳にする。だが、そうした問題が表面化するのは、レポートの課題の出し方にも原因があるのではないか。今後、学びの場で重要となってくるのは、「答えの出し方」というよりは、そもそも「問いをどう立てるか」ということの方だろう。

全国大学生活協同組合連合会 武川 正吾 会長理事(東京大学名誉教授)

 

Campus Life vol.82「ICTの進化がもたらす書籍事業と大学教育の岐路」に寄せて

全国大学生協連 全国学生委員会(2026年度)学生委員長 佐藤 佳樹
全国大学生協連
全国学生委員会
(2026年度)学生委員長
佐藤 佳樹

第61回学生生活実態調査では、書籍費・勉学費はいずれも減少し、月1,000円を下回って過去10年間で最も少なくなった。加えて、生成AIの利用経験がある大学生は92.2%と、前年差で24.0ポイント増えている。

数字だけを見れば、「本を買わなくなり、情報はAIやネットで足りる時代」が進んでいるようにも見える。実際、「知りたい情報はインターネットで時間もお金もかけずに手に入る。だから書籍でインプットはしない」という感覚が広がり、本から距離を置く学生も一定数いるのではないか。

しかし、大学生の学びは検索だけで完結しない。進級や専門分野の探究に伴い、学修習慣も学ぶ内容も毎年変化する。授業や研究のなかで求められる読み書きは、断片的な情報収集だけでは支えきれない場面も増えていく。

高校で「情報Ⅰ」が必履修科目となり、プログラミングやデータ活用に触れてきた世代が大学に入ってくる流れも、その変化をさらに加速させている。その一方で、社会に出ることを見据えたとき「パソコンやITスキルに自信がある」と答えた学生は5.0%にとどまった。

デジタルネイティブ、AIネイティブであることへの期待が先行し、学びの不安やつまずきが見えにくくなってはいないだろうか。

書籍事業は単に「モノ」を届けるだけではなく、学びを支える仕組みへと進化できる。例えば、学びの入り口となる導線づくり、対話や相談を通じた一人ひとりの学修への伴走、学び直しの機会の提供など、キャンパスの中でできることはまだ多い。

学生同士はもちろん、教職員や生協職員も含めたキャンパス内の『学びをサポートするネットワーク』が広がることで、これからの大学生の『学びと成長』はより確かなものになっていくはずだ。

全国大学生協連 全国学生委員会(2026年度)学生委員長 佐藤 佳樹