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『アカデミアを離れてみたら』、どうなった……?
─バラバラな博士たちの本音トーク─

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岩波書店編集部 編
『アカデミアを離れてみたら
ー博士、道なき道をゆく』

岩波書店/定価2200円(税込) 購入はこちら >

学術界から「外」に踏み出した博士たちは、何を感じ、どう生きているのか。研究の経験はどう活きるのか。企業の研究職から官僚そして指揮者まで、21人の博士号取得者たちが、酸いも甘いもひっくるめて実体験を語りつくす。
 

岩波書店のWEBマガジン「たねをまく」のイベントレポートには当日の内容がさらに詳しく紹介されています。>>こちらもぜひお読みください
 2021年8月に発売された『アカデミアを離れてみたらー博士、道なき道をゆく』(岩波書店刊)の刊行記念オンライントークイベントが、昨年12月5日に開催されました(主催・大学生協事業連合、協力・岩波書店)。当日は約160名の方々にご視聴いただき、また事前に募ったご質問も多数寄せていただきました。
 『アカデミアを離れてみたら』には主に理系の博士号取得者22名が登場されていますが、トークイベントにはその中から原田慧さん(データサイエンティスト)、今出完さん(エンジニア)、坪子理美さん(フリーランス翻訳者)、森本行人さん(URA=学術研究支援)、高山正行さん(官僚)、岸茂樹さん(研究者→広告業→研究者)、榎木英介さん(フリーランス病理医)の7名の方にご登壇いただきました(掲載順)。
 はじめに皆さんから自己紹介いただいた後、事前に寄せられたご質問に答える形でイベントが進行しました。
 「アカデミアとはどのような世界か」「民間との違いは何か」「いま修士学生に戻れるとして、博士課程に進学する道を選択するか」等々の質問に、それぞれのご経験をふまえて丁寧に答えていただきました。
 最後に、「知名度の低い大学出身の博士や、英語やプログラミングといった能力が突出していない、あるいは需要の少ない分野の博士も活躍する機会や場所はありますか?」との質問に答える形で、皆さんからメッセージを語っていただきました。
「私のいた大学も、今いる米国では誰も知りません。スタンフォード、ハーバード、MIT以外はすべて「その他」で、実力での勝負になります。
 博士課程はほんの数年間にすぎず、その後の長い人生の中で、その時々に必要な専門性は変わっていきます。それを身につける過程を学ぶことこそが、大学では大事なのだと思います。アカデミアか否かは一つの選択にすぎず、その後も大きな選択はたくさんある。その時に過去の選択にとらわれず、未来に向かって今何をするかを考えて行ってほしいです」(今出さん)
 「自分自身のスキルを活かしてやっていくためには、まずは徹底的に自分の解ける問題に落とし込む力が重要になってきます。それは研究活動の中で身に付くものではないでしょうか。
 進路を決めるのは最後は自分自身なので、他人から見て正解かどうかは関係ない。ただそれを決めるにあたって、多様な進路、自分の可能性を広げられれば広げられるほどよいと思います」(高山さん)
 「完璧な人などいないので、自分に欠けていると思ったら他の人にどんどん協力してもらえばいい。そのためには自分の長所と短所、好きなことや苦手なことを理解しておくことが必要です。どうやって信頼を高め、他の人たちの協力を得ていくのか。これは研究のスキルを身につける以上に重要なことだと思います」(岸さん)
 「文系出身のデータサイエンティストもいますし、分野が違っても意外とどうにかなるものです。『この分野をやっていたらダメ』といったことはないので、その点は気楽に考えてほしいです。
 私も企業にいますが、『私はこれができます!』と言う学生よりも、『これをやりたい!』と語れる人のほうが魅力的です。自分のやりたいことは何か、自分自身としっかり対話してみて下さい」(原田さん)
 「重要なのは何かを読み取る力、伝える力だと思います。私自身は小説を読むことや文章を書くことが好きでしたが、一歩離れて科学書の翻訳を仕事にできたのがよかったと思います。大好きなことど真ん中でなくても、何か続けていけることを仕事と組み合わせていくと、その人なりの軸ができるのではないでしょうか」(坪子さん)
 「私も仕事の中で、出身大学を聞くことはほぼありません。大学名を気にする必要はないと思います。それよりも、いま自分が持っている能力をどのように転換できるのか、ということのほうが大事です。
 私自身は大学時代、アカデミアを離れた人の話を聞く機会はほとんどありませんでした。多種多様な情報や意見を聞くことがとても大事だと思います」(森本さん)
「クランボルツの計画的偶発性理論によれば、キャリアの8割は偶然なのですが、その偶然を前向きにとらえてチャンスとして活かすことが必要とのことです。それには好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、冒険性の5つが大事で、これは学歴とか能力とかとは関係ないように思います。そもそも活躍とは何なのか。他者の評価ではなく、自分自身で活躍を定義してよいのではないでしょうか」(榎木さん)
(文:岩波書店 三輪英毅)
 
   
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