Essay 推し活で高める自分

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福田望琴

 

 「推し」を応援する活動を意味する「推し活」という言葉が世間に広まって久しい。かく言う私も女性アイドルグループへの推し活に勤しむ生活を送る1人である。

 

 初めて彼女たちのライブに行った日の帰り道は忘れない。魂のこもった全身全霊のパフォーマンスに圧倒され、駅のホームでひとり茫然自失していた。けれど、家に着く頃には胸の奥底からポジティブな思いが泉のように湧き出ていた。「彼女たちから受け取ったエネルギーを何かや誰かに分けてあげたい」そして、「彼女たちのファンに相応しい人間になりたい、自分を高めたい」と。

 

 しかし、「自分を高める」には、いったいどうすればいいのだろう? 私はまず、今の自分を愛することから始めたいと考えた。それは、私が推し活をする中で過去を克服したある経験に由来する。幼いころ同級生に言われた「ぶりっ子」という言葉に傷ついて以来、かわい子ぶっていると思われないよう、自分の中にかわいいという概念が生まれることを避け続けて生きてきた。けれど、推しに出会い、「かわいい」という感情がこみ上がるにつれ、その思いが自身にも波及し、心が満たされていった。やがてかわいくなりたいと願うことを恐れる気持ちはなくなった。それは抑えこんでいた自分が解放され、愛することが出来るようになった経験だった。

 

 ここに、自分を愛する気持ちを肯定してくれる本がある。『毛布――あなたをくるんでくれるもの』(安達茉莉子/玄光社)は毛布というタイトルが表すように、心をそっと温めてくれるようなエッセイ集である。読み進め、著者の人生を追体験する中で、私は何度も著者と語り合い、励まし合い、涙を流し、握手を交わした。飾らない率直な言葉たちが背中を優しくさすってくれるようだった。なかでも、「今はもう大丈夫」――バスタブのイメージワークという章では、自分をバスタブの器のように捉え、傷をパテで塞ぐことをイメージするワークについて分かりやすく書かれており、実生活でも実践している。これからも大切に付き合っていきたい友人のような、得難い1冊となることだろう。

 

 そして次に、想像力を培いたいと考えた。推し活は大部分が想像力で形成されていると言ってもいいほど、目に見えない、言語化されていない部分をイメージで補填する作業が醍醐味である。たった1行の歌詞でも、歌い手の表情やダンス、歌の解釈で180度意味が変わることもある。これは現実世界でも同様で、誰かの言葉に落ち込んでしまったとしても、想像力を働かせ多面的にとらえた結果、相手の言葉の裏に隠された本意に気づくことができることもあり、人間関係においても想像力は重要なツールといえる。

 

 ここに、想像力を無限に膨らませるような文にあふれた本がある。『サイレンと犀』(岡野大嗣/書肆侃侃房)だ。短歌の57577のリズムでつづられる日常の風景から、五感すべてでイメージが浮かんでくる。読み手の気分や年齢、場所によっても浮かぶイメージが変わるのが面白く、個人的にはこの本を旅先に持って行ってイメージの違いを楽しむのが好きだ。

 

 最後に、克己心が欲しいと考えた。推し活をしていると、どうしようもなく悔しく、不甲斐なく、情けない気持ちになることが多々ある。こんなに推しは頑張って生きているのに、自分はこのままでいいのだろうか?と。そして冒頭の「自分を高めたい」という気持ちに戻る。そんなとき、私が手を伸ばすのはいつも『野心のすすめ』(林真理子/講談社現代新書)である。野心を持ち突き進んできた人生を振り返りながら、「低め安定」で満足する人々へ喝を入れるような力強い1冊だ。この本を読むと、背筋がピシッと伸びたような気持ちになる。そして気づく、きっと自分の推しも心に熱い野心を持ち、闘志に燃え立ちながら、努力を重ねているからこそ、ステージの上で輝いているのだろうと。もしも彼女たちが、自分自身を嫌っていていつも同じような表情や表現で、そしてこんなものでいいやと努力を怠るような人であったなら、きっと好きになることはなかった。彼女たちはいつも、自信満々な笑みを浮かべ、想像力に裏付けられた様々な表現の引き出しを持っており、常に高みを目指し努力している。

 

 つまり、推しは私のなりたい姿そのものであった。これまで推し活は推しに対して行う対外的なものだと思っていたが、推しを愛することで自分を愛そうとする対内的な活動なのかもしれない。推し活を通して未知の自分を知り、新たな自分を開拓しながら、推しとともに、より幸せで楽しい明日へと歩みを続けていきたいと切に願う。さあ貴方も、素敵な推し活ライフを。

 
BOOK
  • 安達茉莉子
    『毛布――
    あなたをくるんでくれるもの』

    玄光社 定価2,420円(税込) 購入はこちら >
     

  • 岡野大嗣
    『サイレンと犀』
    書肆侃侃房 定価1,870円(税込) 購入はこちら >
     

  • 林真理子
    『野心のすすめ』
    講談社現代新書 定価990円(税込)購入はこちら >
 
P r o f i l e
 

福田望琴(ふくだ・みこと)

大阪公立大学総合リハビリテーション学研究科博士前期課程2年。
モーニング娘。‘22とアンジュルムというアイドルグループにお熱。おすすめ曲は「みかん」(モーニング娘。)・「臥薪嘗胆」(アンジュルム)。

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