愛が止まらない!
~「八咫烏シリーズ」推し語り~

特集「みんなで推しの話をしよう」記事一覧

いずみ委員:川柳 琴美 × 齊藤ゆずか

「座・対談」を終えたいずみ委員2人による「八咫烏シリーズ」推し語り。この記事も読んでほしいけれど、できれば先に小説を……。八咫烏ファンとしては、何も知らずに読み始めるのが最もおすすめなのです!
 

推しレベル
八咫烏シリーズで広がる世界

阿部智里
『烏に単は似合わない』
文春文庫/定価792円(税込)
購入はこちら >
 
 
阿部智里
『楽園の烏』
文藝春秋/定価1,650円(税込)
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齊藤
 「八咫烏シリーズ」(以下「八咫烏」)は、テンポや言葉が美しくて、自分が物語に埋もれられる感覚があります。色や女性の外見描写が華やかで、読んでいて幸福な気持ちになりますよね。それから、音や香りなど、五感に訴える表現があると思います。〈あせび〉が長琴(お琴)を演奏する描写が素敵です。

 

川柳
 音まで聞こえる気がしますよね。私は中学生の時、(自分の)名前に「琴」がつくという単純な動機で箏曲部に入ったのですが、「八咫烏」を読んでモチベーションが上がりました!
 お花の描写も素敵だなと思います。このシリーズを通して知ったお花がたくさんあって。調べて花言葉までたどり着いた時に、「あっ」と鳥肌が立つことも……。

 

齊藤
 「八咫烏」に出会わなければ知らなかったことがいっぱいありますよね。

 

川柳
 そうですね。短編集の『烏百花 蛍の章』の最初に書かれている歌も、そこで初めて知ったのですが、すごく好きです。詳しくは言いませんが、現実世界に存在するものごとも出てくるので、自分と接点を見つけられた時に「山内に近づけた!」って嬉しくなります。

 

齊藤
 友だちに説明するときに「和風ファンタジー」という言い方をするんです。もうそうとしか言えないので(笑)。でも、アクションとかいろんな要素が入っているから、何が好きな人に薦めればいいんだろうっていつも思うんですけど。

 

川柳
 男性も絶対面白いって思う作品なのに、『烏に単は似合わない』(以下『単』)が少女マンガ風にみえるから入りにくいのかな。でも、性別問わず好きになる作品ですよね。

 

齊藤
 本当にそう思います。装幀が美しくて、すごく好きなんですけどね。

 

川柳
 今『烏は主を選ばない』(以下『主』)のコミカライズが進行中なんです。マンガから入って原作を読んでも楽しめるし、コミカライズ作者の松崎さんが原作への愛とリスペクトをすごく持っているので、ファンの方を通した山内をみているみたいで面白いです。

 
 

推しレベル★★
異なる視点で世界を味わう

阿部智里
『烏は主を選ばない』
文春文庫/定価792円(税込)購入はこちら >
 
 
阿部智里
『黄金の烏』
文春文庫/定価770円(税込)購入はこちら >
 
 
阿部智里
『空棺の烏』
文春文庫/定価792円(税込)購入はこちら >
 
 
阿部智里
『玉依姫』
文春文庫/定価792円(税込)購入はこちら >

齊藤
 外伝も本編にしっかり絡んで影響しているのが好きです。本当にひとつの世界がそこにあって、それをいろんな角度からのぞいている感覚があるなと。

 

川柳
 分かります。短編集を待てなくて、本棚には外伝が載っている「オール讀物」が並んでいるくらい(笑)。外伝を読むたびに本編読み直したいって思いますし、「八咫烏」は絶対に外伝まで読んでほしいですね。

 

齊藤
 外伝は、より心が揺さぶられるというか。短い中でいろんなことが起きていくので、心理描写が丁寧だなって思います。本編にはちらっとしか出ていなかった人が、実はこんなこと考えていたのねとか、この行動の裏にこんな想いが……とか。

 

川柳
 ワンシーンしか出てこない人物にも重厚なストーリーがあるって魅力的ですよね。特に好きな外伝はありますか?

 

齊藤
 う〜ん、恋愛が絡むのが好きです。「まつばちりて」とか。本編ではあまり感情を出さなかった彼女が、どういう矜持を持って生きていたのか分かりました。

 

川柳
 いいですよね。「ゆきやのせみ」とか、何気ない日常の一コマなんですけど、本編を知って読むとすごく尊くて……。

 

齊藤
 本編を読むのが苦しくなりますね。

 

川柳
 そうそう。本編も短編も新作が出るたびに既刊の意味が変わるから、同じ気持ちでは読めない。もう戻れないですね。

 

齊藤
 美しいだけじゃなくて、現実はこんなにも残酷なんだって。でも、そんな現実に振り回されながら何とか立ち向かっている。やっぱりキャラクターがそれぞれ独立したかっこよさを持っているな、自立しているなと思うんです。阿部さんとの対談で、キャラクターの内面、核になるところから考えているというお話が印象的で。だからこそキャラクターが自分の意思で行動できるのかなと思いました。
 川柳さんの推しキャラクターは?

 

川柳
 え〜、箱推しです。でもやっぱり〈雪哉〉と〈若宮〉かな。特に『主』が好きなんです。冒険感が面白いのもありますけど、『追憶の烏』まで読むと全く重みが変わってきて。タイトルもね、痺れます。
 あとは、『単』からどんどん印象が変わっていったあの姫。誰かに仕えるとしたら、このお方がいいですね。

 

齊藤
 私も好きです。『単』で彼女が最後にとった行動に鳥肌が立ちました。ここまで真っ直ぐ貫ける人がいるのは、奇跡みたいだなと。空回りもするけれど、最終的にこの人は愛されるんだな、その資質があるなって思いました。

 

川柳
 シリーズを通して最初とイメージが変わる人物が多いです。相手のことを分かっているつもりでも、本当は理解できていない部分があるのは現実でも同じなので、忘れないようにしたいなと思います。

 

齊藤
 生来の性質もあると思うんですけど、誰と出会い、どういう事態に直面するのかが、その人をつくっていると思うことがあって。様々な性格のキャラクターがぶつかり合ったり、重なり合ったりすることの面白さがあるなと思います。

 
 

推しレベル★★★
ファンタジーは甘くない

阿部智里
『弥栄の烏』
文春文庫/定価770円(税込)購入はこちら >
 
 
阿部智里
『烏百花 蛍の章』
文春文庫/定価726円(税込)購入はこちら >
 
 
阿部智里
『追憶の烏』
文藝春秋/定価1,650円(税込)購入はこちら >
 
 
阿部智里
『烏百花 白百合の章』
文藝春秋/定価1,650円(税込)購入はこちら >

川柳
 ファンとして惹かれる部分に、このキャラクターは人気だからとか、普通はこういう展開になるだろうとか、読者の期待みたいなことに左右されずに山内の歴史を書いてくれるという、信頼感のようなものがあって。だからこそ面白いし、先が想像できなくて。「ここでこうくるか〜!」って裏切られるのが好きです。

 

齊藤
 毎回ショックを与えられます。でも、傷つけられたあと清々しくなる。

 

川柳
 ファンタジーって子どもっぽい、女性的と思う方もいるかもしれないけれど、現実と違う世界だからこそ逆にリアルになったり、社会が見えやすかったりすると思います。むしろ現実より厳しいというか。

 

齊藤
 「山内」という何か近いようで遠い世界をすごく上手く創ってあるなって。本当に山神を信仰している村もあるんじゃないかなとか思っちゃいます。だからこっち側・・・・が出てくるとぞわっとするんです。あの儀式とかも怖いなって。

 

川柳
 ね。詳細は言わないですけど『玉依姫』でいきなりですもんね。あそこで視点が変わるから、ずっと知っていると思っていた山内が別物に見えて「あれ?」って。

 

齊藤
 山内を客観視させてきたように感じて。ずっと感情移入してきたものからピュッと距離が開いて、それでより世界観が分かりやすくなったのは驚きました。

 

川柳
 それに〈志帆〉は私たちと年齢が近いし、自分と家族の考え方の違いとか、出てくる問題が身近でとても共感しました。

 

齊藤
 高校生、大学生って、親や家族から独立して自分自身を見つけていく時期だなと思っていて。どうしても分かり合えないところがあるってところは、何回でも読み返せますね。いつか自分が親になってからも。

 

川柳
 「八咫烏」は最初に序章みたいな、最後まで読んでやっと意味が分かる大事な部分があるじゃないですか。『玉依姫』の序章も、読み返すと違った意味がみえてくる。

 

齊藤
 ただの子どもだった〈志帆〉に二面性が出てくるのが面白いですよね。阿部さんは絶対に子どもを子ども扱いしないなって思うんです。子どもだけど大人とか、大人がふと子どもになってしまうとか。

 

川柳
 ファンタジーならではのリアルというと、身分も大きな問題ですよね。

 

齊藤
 私は、山内のある身分制度にすごくモヤモヤして。それに問題意識を持つ人と持たない人がいる。生まれた場所によるどうにもならない価値観があるのかなと。

 

川柳
 読者も最初は貴族の視点で入るから、何も知らないし思わない。だからこそ事実を知ったときに衝撃を受ける。でも、貴族を単純に批判することもできなくて。貴族には貴族の苦しみもありますしね。現実でも、自分と異なる環境で育った方とでは、価値観や認識に違いがあるはずで。「八咫烏」では、それがとても分かりやすく書かれているなって思います。

 

齊藤
 『黄金の烏』でも心が揺さぶられましたね。未解決のまま終わっているところがあって、そういうちょっとモヤッとするところを残してくる小説が好きなんです。だから阿部さんの「私はこう思うけれど、あなたはどう思う?」というのをずっとやっているというお話が印象的でした。

 

川柳
 私も「八咫烏」がどんな物語なのか、あの言葉に集約されていると思いました。問いかけられているなって。

 

齊藤
 それぞれのキャラクターの行動の論理は説明されるけれど、価値判断は絶対しないじゃないですか。そこを読者に委ねるのが徹底されているなと思います。

 

川柳
 「あなたが私の立ち場だったら……」みたいな言葉が繰り返し出てくる作品もあって、まるで自分が言われているように感じます。いろんなキャラクターを通して、自分が世界をどう見ているかに気がつくことが多いですね。

 
P r o f i l e

川柳 琴美(かわやなぎ・ことみ)
お茶の水女子大学4年。自他ともに認める八咫烏オタク。スマホにつけている八咫烏のお守りは現在5代目。今号の『izumi』は一生の宝物として保管しつつ、配り歩いて布教に使いたい。齊藤さん、また語りましょうね!

齊藤 ゆずか(さいとう・ゆずか)
京都大学文学部3回生。高校時代、先輩に勧められて「八咫烏シリーズ」を読み、大ファンとなる。京都の神社で、登場する神様の名前を見つけたのが嬉しかった。いつか川柳さんと「聖地巡礼」できたらいいな……!

 

紙幅の都合で泣く泣くカットしましたが、この2倍は語っています。そして、まだまだ語り足りない! 今度あなたも一緒に「八咫烏シリーズ」を語りましょう!
※「八咫烏シリーズ」各作品については、「座・対談@オンライン」でご紹介しています。

 

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