NHK Eテレ「100分 de 名著」 取材記
収録現場の息遣い

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笠原 光祐

番組情報


 1925年。普通選挙法が公布されたこの年に東京放送局、後の日本放送協会(NHK)が最初のラジオ放送を開始しました。3月8日、『izumi』のメンバーはそんな歴史あるNHKにやってきました。本日はEテレ「100分 de 名著」の番組収録現場を取材させていただきます。
「100分 de 名著」は古今東西の名著に込められた現代にも通じる魅力を、専門家の先生と一緒にわかりやすく読み解く番組です。今回の名著は『法華経』。正直なところあまりなじみのない著作ですよね。恥ずかしながらお経にストーリーがあるとは思ってもみませんでした。しかしそこは「名著」、どんな魅力を発見できるのか楽しみです。
 ここは渋谷区にあるNHK放送センター。人通りの絶えない入り口ゲートを抜け、一同はスタジオへ。スタジオに一歩足を踏み入れるとそこはもう職場、番組スタッフの真剣な空気が伝わってきます。
 セットは、白くて大きなスタジオ内にポツンと空間を切り取られたように作られていました。なんだか幻想的な光景で、別世界に訪れた気分です。「そんなところに立っていないで中までどうぞ」という美術さんのご厚意で、まずはセットを隅から隅まで見させていただくことに。それはテレビで観たそのままで、表には見えないところまで丁寧に精巧に作られています。棚や各所に積まれた本は洋書から小説まで多岐にわたり、中には大学生に馴染み深い本もちらほら。メンバー一同「これ読んだことある!」と盛り上がりました。まさに読書家の理想の部屋です。
 そうこうしている間に、もうすぐ本番です。私たちはスタジオの隅に用意していただいた椅子に腰かけてその時を待ちます。ワクワクそわそわしていると、指南役の植木雅俊先生と司会の伊集院光さん、島津有理子アナウンサーがスタジオに入ってきました。カメラワークなど、現場のスタッフの方々と別室でモニタリングするプロデューサーさんらによる最終チェックを終えて、いよいよ収録が始まります。一気に出演者の雰囲気が変わり、真剣ですがにこやかなテレビ向けの表情になりました。ディレクターさんによる簡単な進行確認の後、撮影スタートです。
 収録に立ち会うのは初めての経験ということもあり、なぜだかこちらの方が緊張してしまいます。撮影に用いられるカメラは複数台あり、赤いランプがつくとその機体の映像が使われる、ということを示しているそうです。今回は「法華経」編、第二回。「法華経」に出てくる例えに隠された時代・地理的背景が次々と明らかにされていきます。さらにフリップやアニメーションも挟みながら魅力的に番組づくりは進んでいきます。収録は「生」のモノでした。状況は常に変化し続けます。それにすぐに対応できるよう、スタッフの方々は常にインカムを通じて連絡を取り合っているのです。カメラはそれぞれの出演者や引きの動きなどを絶えず撮影しており、いつ使われてもいいよう最善を尽くしています。また、この番組は対話型ということもあり、撮影中にも教授が新しい例えを思いついたり、ご存知伊集院さんのヒラメキで盛り上がったりといろいろなアイディアが生まれていきます。それらは即座に別室のプロデューサーさんらにインカムを通じて共有され、どんどん撮られていくのです。逆に別室から指示が飛び、画を追加で撮ることもありました。スタッフの方々全員の息遣いが四方から聴こえてくるようです。その様子を目の当たりにしながら、たくさんの人の手によって番組が作られていくということを肌で感じました。人と人が協力してひとつのものを生み出すということは、とても素敵で憧れてしまいます。就職活動前にそんな場所に立ち会えたことは、間違いなく僕の財産になりました。
 さてさて夢中になっていると時間は早く進むもので、約1時間にわたる撮影は終了を迎えます。本編は「そういうことだったのか」「ここにはそんな背景が」と音をたてないように膝を打ちっ放しでした。事前にある程度「法華経」について予習してきたつもりでしたが、その各所の掘り下げの深さに舌を巻くばかりでした。大乗仏教に秘められた「時代に左右されない哲学」が、身に染みて理解できたように思います。なにより番組全体、フロア全体がとてもパワフルで、その熱量にも魅せられました。もちろんリハも台本もありますが、そこには圧倒的なリアルがあり、番組制作それ自体がドキュメンタリーのようでした。
 改めて感じたことは、普段テレビで観ていたのは番組全体のほんの一部分に過ぎないのだということです。セット然り、収録然り。きっと他にも、世の中には実際に現場に行かないと気づけないことがたくさんあるのでしょう。これからもっともっといろいろな場所へ行き、自分の目で確かめ見分を広めたい、そう思いました。

 そんな冷めない興奮をそのままに、我々はプロデューサーである秋満吉彦さんにお話をうかがうべく、会議室へ早歩き気味に向かいました。秋満さんが番組以上にパワフルな方だと知るのはこのすぐあとのことです。  
 

 
番 組 情 報

NHK Eテレ「100分 de 名著」…6月の放送はアルベール・カミュ『ペスト』

〈第3回(6/18)それぞれの闘い・第4回(6/25)われ反抗す、ゆえにわれら在り〉
〈放送日〉毎週月曜日/午後10時25分〜10時50分
〈再放送〉水曜日/午前5時30分〜5時55分、午後0時00分〜0時25分

番組ホームページ

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P r o f i l e
笠原 光祐(かさはら・こうすけ)
千葉大学法政経学部3年。
2018年度『izumi』読者スタッフ。千葉大学では読書サークル「ちば読。」に所属。古事記から最近の小説まで幅広いジャンルの本を読みます。現在買っただけで読めていない積み本が19冊あります。これからも増えます。

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