いずみスタッフの読書日記 153号


レギュラー企画『読書のいずみ』委員・スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 東京外国語大学3年 三宅梨紗子 
    M O R E
  • 山形大学2年 片山凜夏 
    M O R E
  • 奈良女子大学 博士研究員 北岸靖子 
    M O R E
  • 広島大学4年 杉田佳凜 
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  • 愛媛大学4回 頼本奈波 
    M O R E

 

 

東京外国語大学3年 三宅梨紗子

10月2日。

 授業のチャイムが長い夏休みの終わりを告げる。「始まってしまった。」ガレリアと呼ばれる講義棟の通路は、多くの学生でうめられていた。やって来てしまった授業日を嘆き、憂鬱な面持ちの人、久しぶりに会えた友人と楽しそうに会話をしながら歩く人、夏を存分に楽しんだことが丸わかりな日焼け顔の人、部活動を頑張ったのであろう、どこかたくましくなった人。それぞれ思い思いの夏を過ごし、こうしてまた一堂に集う。新学期の何とも言えぬ雰囲気は大学生も小学生も同じではないかと思う。
 六学期目を迎えた私は、授業数も少なくなり、読書に費やすことの出来る時間も自然と増えた。「空きコマ」「全休」を利用して、ゆっくり本と向き合うことができる。そこでまず手に取ったのは『ガソリン生活』(伊坂幸太郎/朝日文庫)。車からみた人間の描き方がユーモアたっぷりで、ラストのほっこり感がたまらない。
 

10月の中旬。

 10度を下回る日が続き、早くも冬物のコートを着て、手袋まで装備してしまった私は、12月になったら雪だるまみたいになっているかもしれない。『白馬山荘殺人事件』(東野圭吾/光文社文庫)を読み始めたのもそんなころ。物語のカギとなっているのは童謡「マザー・グース」。この英語の歌を手掛かりに、主人公は兄の死の真相に迫っていく。謎解きが巧妙で、思わずじっくり考え込んでしまうため、秋の夜長(冬みたいに寒いけど!)にはぴったりだ。
 

10月も終盤。

 週末に母と虎ノ門ヒルズへ向かった。目的は「Toranomon Book Paradise」。全国から書店が集まり、一箱古本市や移動書店もあって、本好きにはたまらない空間だった。そこで一冊の本に出会った。『We Work Here 東京のあたらしい働き方100』(ミライインスティテュート)だ。最近、最後の試合を終え、部活動を引退した私は、次にやってくる就活について考える時間が増えていた。働くとは何か。自分に合った職業とは。考えれば考えるほど疑問はつきない。100人の働く人の話に何かインスピレーションをもらえれば。軽い気持ちで読み始めた。金属アレルギーの経験から自らのジュエリーショップを立ち上げた人、教員を経てカフェを開いた人、など職種も遍歴も様々。「この本の登場人物たちは、読者のロールモデルにはならないし、参考にならない」とあるように、誰かの生き方を真似することはできない。私が疑問に思っていた「働くとは何か。」この答えは無限に存在する。それが分かっただけでも大きな進歩だ。
 
 
 

 

山形大学2年 片山凜夏

寝る前のひととき

 そうだ、あの本を読みたいんだった。本屋さんで見つけて惹かれた『吸血鬼は初恋の味』(赤川次郎/集英社オレンジ文庫)という本。赤川次郎さんといえば正統派のミステリーを何作も書かれている「すごい人」というイメージだったけど、この本は可愛らしい表紙で文字も大きく、挿絵もついている。
 正統吸血鬼のフォン・クロロックが吸血鬼と人間のハーフである神代エリカの周りで起こる事件を解決していくという話だった。一気に読んでしまったせいで、思ったよりも寝るのが遅くなってしまった。
 寝転んで読んでいたついでに、この本を調べてみる。「吸血鬼はお年頃」というシリーズで、どの巻からでも気軽に読め、非現実的な事件も多いみたいだ。私の中にあった赤川さんのイメージが崩れてしまったこともあり、「赤川次郎さんの雑な仕事シリーズ」と呼んでみる。ミステリーや読書が苦手な人でも読みやすそうだといういい意味でだ、と心の中で勝手に言い訳までして。
 あぁ、またこのシリーズの本を買ってみよう。おやすみ。

移動のお供に

 連休があったので電車に乗って実家に帰ることにした。移動中に読む本は何にしよう。
 伊坂幸太郎さんの『陽気なギャングが地球を回す』(伊坂幸太郎/祥伝社文庫)を薦められたんだった。それを持っていくことにしよう。
 駅までの道中に、これまでに読んだことのない伊坂さんの作品が、自分にとって苦手なジャンルだろうと考えていた。私は読んでからもずっと考え続けてしまうような重い作品よりも、楽しく読んで「あーおもしろかった」と現実に戻って来られるような軽めの作品の方が好きだから。伊坂さんは重い作品を書いているイメージがあるから。
 コーヒーを買って電車に乗り込み、さっそく読み始める。それぞれに特技を持つ4人組の強盗の話だ。
 あ、降りないと。読みかけの本は中途半端なところで止まっていて、早く続きを読みたくなる。
 実家に着いてからも続きを読んだ。おもしろい。どうしてこれまで読んでこなかったのだろう。読まず嫌いは損をするなと思った。会話が多くテンポがよくて読みやすい。クライマックスで回収されまくっていく伏線もすごかった。
 このシリーズは3冊出ているらしい。大好きなシリーズの1つになりそうだと思う。
 
 
 

 

奈良女子大学 博士研究員 北岸靖子

10月中旬

 実は、長編小説を読むのが苦手だ。
 本は好きだが、長時間活字を目で追うことができない。それがどんなに魅力的で面白い小説であったとしても、30分も経てば体がむずむずして別のことをしたくなる。おまけに記憶力もないので、上下巻とかシリーズ物を見ると尻込みしてしまう。
 しかし私の経験上、短編小説より長編小説のほうが読みごたえもインパクトもある作品が多い。意を決して、私は以前からずっと気になっていた作品に手を伸ばした。
 吉田修一さんの『怒り』(中公文庫)だ。昨秋映画化された時に話題になり、ずっと気になっていたのだが、上下巻に分かれているのを見て怯んでいた。
 赤と白の荒々しい題字。タイトルからして、いかにも暴力的で荒んだ印象だ。重い小説は疲れるが、今は体調も精神状態もいい。覚悟を決めて表紙を開いた。
 すぐに物語に引きずり込まれた。
 この作品では千葉、東京、沖縄の三ヶ所で物語が同時進行する。しかしなぜか読みやすい。千葉や沖縄には一度も行ったことがないのにリアルな情景が脳裏に浮かぶ。もしかしたらこれは映画の予告編を見たからだろうか。
 愛する人が殺人犯かもしれない——その時、あなたはどうするだろう。素性の知れない相手のことを信じられる? それとも警察に通報する?
 主演の渡辺謙さんは、これは純愛映画だ、とおっしゃったらしいが、まったくそのとおりだと思う。人間が持つ矮小さとか無償の愛が、密度の濃い文体で描き出されている。それぞれのラストシーンでは思わず涙ぐんだ。
 映画も観てみたい、と強く思った。こんなに濃密な話がたった142分間に収まったなんて信じられない。

10月下旬

 新聞の書評欄を読むのが好きだ。面白そうな本はあるかなと毎週楽しみにしている。そこで紹介されていた、とあるエッセイ集に興味を抱いた。演劇作家の藤田貴大さんが書かれた『おんなのこはもりのなか』(マガジンハウス)だ。
 雑誌『an・an』で連載されていたというから女性受けする内容なのかと思いきや、初っ端から女子中学生の腕の毛の話だった。そして生え際、前髪、タトゥータイツ……と続いていく。男の人って皆こんな変態なん!? と驚き、爆笑した。少なくとも私は充血した目を見ても興奮しないし、他人の口内炎も見たくないし、鼻水なんて絶対飲みたくないです。
 
 

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