【特集①】新たな時代の地域プラットフォームへ

学生と地域・企業をつなぎ、成長と貢献を生み出す
島根大学の「まなたび講座」
地域をいかに活性化していくか。そのために大学はどのような役割を果たすことができるのか。
それは地方創生を標榜するすべての地域が内包する課題であり、その地域に存在する大学の命題でもあります。
島根大学生協の「まなたび講座(学びと体験・出発<たびだち>講座)」はそこに一つの解答を示す革新的な取り組みであり、新たな地域活性化施策の先駆的モデルといえるかもしれません。
島根大学の地域貢献を支える大学生協の取り組み

島根大学生協の「まなたび講座」は、そんな島根大学の地域貢献に対する取り組みの一環として、島根大学生協が主体となって入学したばかりの1年生向けに提供している体験型のキャリア・社会人基礎力育成プログラムです。
「あくまで自主講座ではありますが、通常の大学の講義とは異なり、実際に自分たちで企画を考えたり、地域社会や企業と関わったりしながら現在注目されている学生の『社会人基礎力』や学生が自ら挑戦する『主体性』を身につけることを目的としています」(加田さん)。
「まなたび講座の立ち上げは2014年、スタートしてから10年余りが経過しましたが、これまでに1,000人以上の学生が受講しています。もともと島根大学では県内就職率が低く、現在でも約7割の学生が卒業後は島根県外の企業に就職します。講座の企画にあたってはこの点を少しでも改善し、より多くの学生が卒業後も島根県に残って、将来にわたって島根県に貢献してくれる人材を育成していきたいとの思いがありました」(吉谷専務)。


地域とともに地域を考える約1年間にわたる全19プログラム
まなたび講座は、約1年間にわたって全19コマのプログラムで展開されます。まず、4月は大学生活スタートプログラムとして、自己分析ツールを受診することで今の自分を知ります。そして、これまでの自分の殻を破り、これからの成長目標を設定するためのプログラムに取り組みます。5〜6月にかけてはチャレンジプログラムとして、島根県内外を問わず、日本各地で活躍する社会人へインタビューを行い、自分たちでその内容を記事としてまとめ、7月にその記事の発表会を行います。10〜12月にかけてはアドバンストプログラムとして、地元企業から与えられた課題を選択し、チームでその課題解決に挑む地域企業プロジェクトに取り組み、1月にその成果を「成果発表会+PF(ポートフォリオ)発表会」として披露します。これは1年間の最後に、自分自身の成長や変化を振り返る機会でもあります。地元企業からは「Z世代(若者)に向けた新商品の企画・販売プロモーション案」や「若者世代に自社の魅力を知ってもらうための採用・SNS戦略」、「地域資源を活用した新しいサービスやイベントの企画」といったさまざまな課題が与えられ、受講生は自分で興味のある課題を選択します。まなたび講座では約1年間にわたるプログラムを通して、コミュニケーション力やチームワーク、課題解決力など、将来の就職活動や社会に出てから必要となるスキルを大学生活のスタート段階から養成していきます。また、学部ごとではなく全学部の新入生が対象となるため、自分の学部・学科以外の仲間、学年を超えて過去に受講した先輩サポーターとのつながりを持つことができるのも大きな特徴です。
「私は地元企業であるメディアスコープさんから出された『自分たちが参加したいと思える地域イベントって何だ?』 という課題を選択しました。島根県には観光にしても、物産にしても、文化的にも本当にたくさんの魅力があります。そのためにかえって企画の焦点が絞れずに苦労しましたが、仲間や先輩サポーターの皆さんからのアドバイスで何とかまとめ切ることができました」(佐藤さん)。
「私は地元の自動車学校から出された『合宿免許パンフレットのリニューアル』という課題に取り組みました。自分がやりたいと思うこととクライアントが伝えたいと思うことのギャップ、正解のない課題に向き合う難しさを感じたと同時に、困難に果敢に取り組み、考えて進むべき道を見出していくことの楽しさを知ることができたと思っています」(植村さん)。
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参加企業にとっても大きな価値をもたらす戦略的メリット
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「佐藤さんが課題を選択してくれた私たちメディアスコープでは、企画を武器に地域をプロデュースし、社会課題の解決に資する事業を展開しています。コロナ禍の際には当時島根県では珍しかったオンラインでのイベントをいち早く開催するなど、島根のファーストペンギンと呼ばれているとかいないとか(笑)。現在ではイベント企画や映像制作だけでなく、島根の産品の認知度向上プロジェクトやコンセプトカフェの経営など幅広い分野に進出し、島根県の新たなビジネスシーンの創造に日々努めています。私はまなたび講座に参加する学生たちは、地域活性化に貢献したい、誰かのために役立つことをしたいという高い視座を持っていると感じています。そんな彼らの存在、彼ら目線での新しい発想は、私たち企業にとっても大変刺激的であり、貴重なものといえます。また、まなたび講座は大学生協が主催し、先輩たちがスタッフとしてサポートしてくれる体制が受講する学生たちの心理的な安心につながり、私たち企業との関係もより自然なものになっていると思います」(中村さん)。
参加している地元企業はまなたび講座を通して、通常の会社説明会や面接では知ることのできない真の学生の姿や考え方などを知ることができるうえ、1年生の早い段階で自分たちの会社や仕事のやりがいを深く知ってもらうことで、将来的には就活の際の選択肢の一つとして彼らにより強いグッドウィルをもたらすことができます。


地域に貢献する若者たちを育むエコシステムの中心的存在へ
「これまでは一人の時間が好きで、人との関わりを煩わしいと思っていましたが、まなたび講座を受講したことで、人とコミュニケートすることが楽しいと思えるようになりました。また、基本的に引っ込み思案で一歩を踏み出せない自分に歯がゆい思いをしていましたが、挑戦へのハードルが下がり、何事にも積極的に取り組むことができるようになったと思います」(佐藤さん)。「プログラムを通して仲間や先輩サポーターと意見を交わすことで、自分をより深く知ることができ、前よりも自分のことが好きになれたのが一番大きいかもしれません。やみくもに良い点を褒めるばかりでなく、改善すべき点もしっかりと指摘してくれる、単なる友達関係にはないかけがえのない時間があったと思っています」(植村さん)。
このように受講した学生たちに大きな変化と成長をもたらしてきたまなたび講座ですが、学生たちだけでなく、これからの地域貢献のあり方をアップデートする先駆的な取り組みとしてますます注目されるところです。
「私たちとしてはこのまなたび講座が、これからの時代の地域と大学を結ぶ新たなプラットフォームになれればと考えています。単なる大学生協の自主講座という枠を超えて、大学・大学生協・地元企業の産学官地域連携のハブとして機能し、地域全体で学生たちを地域にとって有為な人材へと育てていくエコシステムの中心へと発展させたいと思います」(吉谷専務)。
社会構造や世の中の価値観が大きく変化していく中で、まなたび講座が今後どのような役割を果たしていくのか、大きな期待が寄せられています。


取材にご協力いただいた方々
中村 和可子さん
株式会社メディアスコープ
代表取締役社長
株式会社メディアスコープ
代表取締役社長
植村 明さん
島根大学 生物資源科学部3年
島根大学 生物資源科学部3年
佐藤 一喜さん
島根大学 総合理工学部2年
島根大学 総合理工学部2年
吉谷 淳
島根大学生協 専務理事
島根大学生協 専務理事
加田 凜
島根大学生協
島根大学生協
Featured Projects
JAしまねと学生が協働する産直野菜ミールプラン
産直野菜の販売を通じて食と健康と自炊を支援

島根大学生協の第二食堂にある「ニコラストア」では、毎週金曜日に島根県内の農家の皆さんが丹精込めて作った地元野菜の産直販売が行われています。手書きのポップなどで彩られた旬の野菜が並ぶ様子は、まるでパリのマルシェのよう。開催日には多くの学生たちで賑わいを見せています。
JAしまねと島根大学生協の学生委員会によるこの協働プロジェクトは、2024年にスタートしました。近年、学生の間で食への意識低下が懸念されていたことから、「学生の食と健康、そして自炊を支援したい」という学生委員会からの働きかけによって企画されたものです。
「生協では学生への食事支援として食堂利用定期券『ミールプラン』を提供していますが、この企画では産直野菜をミールカードで購入できる点が大きな特徴です。『食べる』という行為は、学生時代だけでなく生涯を通じて向き合うべき課題です。自炊をすることが、自らの食生活を見つめ直し、自立して暮らすきっかけになればと考えました」(梁島さん)。
JAしまねと島根大学生協の学生委員会によるこの協働プロジェクトは、2024年にスタートしました。近年、学生の間で食への意識低下が懸念されていたことから、「学生の食と健康、そして自炊を支援したい」という学生委員会からの働きかけによって企画されたものです。
「生協では学生への食事支援として食堂利用定期券『ミールプラン』を提供していますが、この企画では産直野菜をミールカードで購入できる点が大きな特徴です。『食べる』という行為は、学生時代だけでなく生涯を通じて向き合うべき課題です。自炊をすることが、自らの食生活を見つめ直し、自立して暮らすきっかけになればと考えました」(梁島さん)。
旬の野菜を知ることで島根県への愛着を育む

この取り組みは、学生の食生活の改善だけでなく、JAしまねにとっても大きな意義を持っています。
「学生委員会の皆さんからご提案いただき、2023年2月に試験販売を開始しました。当時は8種類ほどの旬の野菜を並べただけでしたが、どんな野菜が学生にとって調理しやすいかなど協議を重ね、2024年5月から種類と数を増やして本格的な販売をスタートしました。JAとしては、この販売を通して本当の旬のおいしさを知ってもらうこと、そして県外出身の学生さんに島根県の魅力を知ってもらうきっかけになればと思い参加しています」(佐川さん)。
実際、島根県には「あすっこ(ビタミン菜とブロッコリーを掛け合わせた県オリジナル野菜)」などの特産品がありますが、こうした野菜の存在もプロジェクトがなければ知る機会がなかったかもしれません。日常的に新鮮な野菜を取り入れることで、健康的な食生活への意識を高めると同時に、地域への愛着を深めることにもつながっています。
「学生委員会の皆さんからご提案いただき、2023年2月に試験販売を開始しました。当時は8種類ほどの旬の野菜を並べただけでしたが、どんな野菜が学生にとって調理しやすいかなど協議を重ね、2024年5月から種類と数を増やして本格的な販売をスタートしました。JAとしては、この販売を通して本当の旬のおいしさを知ってもらうこと、そして県外出身の学生さんに島根県の魅力を知ってもらうきっかけになればと思い参加しています」(佐川さん)。
実際、島根県には「あすっこ(ビタミン菜とブロッコリーを掛け合わせた県オリジナル野菜)」などの特産品がありますが、こうした野菜の存在もプロジェクトがなければ知る機会がなかったかもしれません。日常的に新鮮な野菜を取り入れることで、健康的な食生活への意識を高めると同時に、地域への愛着を深めることにもつながっています。
販売者と消費者の視点で考える貴重な経験
実際の販売現場でも、学生委員会ならではの工夫が光ります。手書きポップで野菜の特徴や使い方を分かりやすく紹介したり、地図上に産地をプロットしたり、手軽なレシピを提案したりと、さまざまな取り組みを行っています。「どうすれば学生たちの食への関心を高められるか、メンバー同士でアイデアを出し合っています。レシピを作る際も、試験前なら疲労回復、夏場なら夏バテ予防など、季節や学生の状況に合わせた『簡単で作りたくなるメニュー』を意識しています。最近では、並んでいる野菜を興味深く眺めたり、調理法を尋ねてくれたりする学生が増えてきました。プロジェクトを通じて、販売する側と消費する側、双方の視点で物事を考えられたことは非常に貴重な経験になっています」(田渕さん)。
プロジェクトは回数を重ねるごとに定着し、最近では完売することも珍しくありません。生産者からの評価も高く、「今度はこんな野菜を並べてみてはどうか」と逆提案を受けることもあるそうです。学生の食生活の改善が、地域活性化という好循環を生み出していることがうかがえます。将来、島根大学を卒業するすべての学生が自炊を楽しみ、健やかな食生活の基盤を確立して社会へと旅立っていくことを理想としています。
取材にご協力いただいた方々

JAしまねくにびき地区本部
佐川 真二さん
佐川 真二さん

島根大学大学院
自然科学研究科1年
梁島 遥輝さん
自然科学研究科1年
梁島 遥輝さん

島根大学
人間科学部2年
田渕 麻衣さん
人間科学部2年
田渕 麻衣さん

島根大学生協
原田 涼平
原田 涼平
Featured Projects
島根大学における卒業生向け「お金のセミナー」
お金を巡るトラブルから新社会人の彼らを守るために

その思いから、島根大学生協では生協しまねと連携し、2024年より卒業予定の学生を対象とした「お金のセミナー」を年1回開催しています。取り組みの背景には、学生生活を支えてきた「学生総合共済」の契約満了に伴う「無保障状態(保険・共済への未加入)」の防止があります。学生総合共済はあくまで「学生であること」を前提とした制度です。卒業前には満了の通知が届くものの、卒論の執筆や引越し、新生活の準備に追われる中で放置・破棄されてしまうケースが少なくありません。
中には「新社会人コースへ自動移行される」と誤解している学生も存在します。こうした認識のズレや不注意による無保障状態を防ぐため、セミナーでは社会人に役立つマネー知識に加え、自分に必要な保障の考え方を対面・オンライン・アーカイブ配信という複合的なスタイルで伝えています。
机上の論理ではなく、リアルなマネー知識に特化

地域生協を支える人的リソースとしての学生の存在
さらに本セミナーは、生協しまねが直面する地域課題とも深く結びついています。近年、全国の地域生協において組合員の高齢化や若者の「生協離れ」が深刻化しています。背景には、若い世代における生協の認知度低下や、地域コミュニティに対する意識の変化があります。そもそも「生協がどういう仕組みで、どんな活動をしているのか」を知らない若者も少なくありません。たすけあいを基盤とする地域生協にとって、若年層との接点減少は組織の存続に関わる重大な課題です。だからこそ、生協しまねと島根大学生協が連携して卒業生支援を行うことには大きな意味があります。これは単なる金融教育にとどまらず、将来にわたって地域コミュニティを維持・活性化していくための取り組みでもあるからです。また、地域貢献を使命とする国立大学にとっても、こうした地域との協働は非常に価値のあるプロセスといえます。今後もこうした活動を通じて、地域社会や生協を未来から支える「人的リソース」としての学生の可能性に光を当て、支援の輪を広げていくことが期待されています。取材にご協力いただいた方々

生活協同組合しまね
常務理事
玉置 悟郎さん
常務理事
玉置 悟郎さん

生活協同組合しまね
新井 徹さん
新井 徹さん

生活協同組合しまね
島崎 翔太さん
島崎 翔太さん

島根大学
生物資源科学部4年
藤井 春希さん
生物資源科学部4年
藤井 春希さん

島根大学
人間科学部3年
宮脇 緋海さん
人間科学部3年
宮脇 緋海さん

島根大学生協
小椋 公貴
小椋 公貴
CONTENTS
【特集】新たな時代の地域プラットフォームへ
- Close up Data
最近の注目データ大学進学は、親にとっても一大事!
- Leader's Voice[島根大学]
大谷 浩 学長徹底した現場主義で地域の未来を拓く、島根大学の地域貢献。
- 特集①新たな時代の地域プラットフォームへ 学生と地域・企業をつなぎ、成長と貢献を生み出す島根大学の「まなたび講座」

- 特集②大学生協の新店舗・リニューアル店舗のご紹介キャンパスライフを支える
食と学びと暮らしのワンダーランド
- 島大生の健康と安全
学生の心身の健康増進と地域連携を通じた救命教育「PUSH プロジェクト」.jpg)
- CL TOPICS
「行ってよかった!」一歩踏み出した先にあったもの
- CL Column
今こそ再認識されるべきPTAという存在一般社団法人
全国高等学校PTA連合会
田名部 智之 会長.jpg)