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読んでおきたい文豪作品
〜いずみ委員 Selection 〜
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特集「てのひらに文豪を」記事一覧
今回は『読書のいずみ』メンバー選りすぐりの文豪作品(と文豪をイメージした作品)を取り揃えました。
森鷗外
『舞姫/うたかたの記』
角川文庫/本体400円+税
お国やお家のために生きることが当たり前だった時代における、日本人の淡い自我の芽生えを切り取った名作。その独立心が恋と共に儚くも摘み取られていく様は苦くて物悲しく、自然とため息を誘う。短い文章に込められた狂わんばかりの激情は読者の身をも焦がすようだ。ぜひ読み直してこの深い味わいを堪能して欲しい。(笠原)
田山花袋
『蒲団/一兵卒』
岩波文庫/本体480円+税
妻子持ちの文学者が、弟子のうら若き女学生に片思いしてしまう。驚くことに、そんなセンセーショナルな小説が明治に書かれていたのである。彼女への師弟愛と独占欲との間で揺れる微妙な心の内が、生々しく赤裸々に、しかしどこかポップに描き出されており、すいすい読める。主人公に不思議と共感できてしまうところが魅力である。(笠原)
志賀直哉
『小僧の神様』
岩波文庫/本体640円+税
一篇ずつが短く、さらりとした文体で書かれているため、とても読みやすい。明治から昭和にかけて活躍した文豪の短篇集だが、私は本書を読みながら「ライトノベル」という単語を連想した。どの作品の登場人物にも生身の人間らしい息遣いと感性があり、真に迫ってくる。特に「流行感冒」に出てくる女中の石が印象的だった。(北岸)
清家雪子
『月に吠えらんねえ 1』
講談社 アフタヌーンKC/本体740円+税
『月吠』に登場するのは文豪本人ではない。日記や評論も含む著作全体から受けた印象を基に「朔くん=萩原朔太郎」たちは生み出され、彼らならではの在り方で日本文学史を縦横無尽に問い直す。たとえば詩歌句は戦争責任を引き受けるの? 文学が、言葉が好きな人ほどきっと辛くなる。けど、これは好きだからこそ引き受けるべき辛さだ。(杉田)
石川啄木
『石川啄木歌文集』
講談社文芸文庫/本体950円+税
啄木の短歌はつい口ずさみたくなる。たとえば
不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心
の懐かしい輝き。「歌文集」なのは詩とエッセイも収録されているからだ。ただ、啄木は小説家になりたかったらしい。
『石川はふびんな奴だ。』/ときにかう自分で言ひて、/かなしみてみる。
共感するから口ずさむのか。(杉田)
山本有三
『路傍の石』
新潮文庫/本体940円+税
激動の時代を我が身一つに持ち前の負けん気を引っ提げて懸命に生きる主人公の姿に胸を打たれる。特に少年の頃の心理描写は秀逸で、小さい頃の自分が目の前で語っているかのようだった。時代に恵まれず悔しくもペンを折らざるをえなかったこの物語は、いつまでも読み継がれるべき輝く宝石ような小説である。(笠原)
芥川龍之介
『藪の中』
講談社文庫/本体390円+税
藪の中で発見された男の遺体。証人たちによって事件の真相が明らかになっていくかと思いきや、当事者たちの告白はそれぞれ食い違うものだった。人間の記憶とは、真実とは。短いページ数の中に唸らせてくれる要素が詰まっている。誰が真犯人なのか推理する読み方も乙なもの。読書会で意見交換するのもおすすめ。(任)
江戸川乱歩
『江戸川乱歩傑作選』
新潮文庫/本体550円+税
探偵小説で最も有名な文豪といえば江戸川乱歩だろう。この本には探偵小説の「D坂の殺人事件」や、怪奇小説の「芋虫」など彼の代表作が多数収録されている。狂人が登場する作品やグロテスクな作品もあるので、中には苦手な方もいるかもしれないが、はまればやみつきになること間違いなし。初めて乱歩を読む方におすすめ。(河本)
梶井基次郎
『檸檬』
角川文庫/本体400円+税
不吉な塊に押さえつけられ、お金に困っていた「私」。そんな私を救ったのは1個のレモンだった。五感全てで私の心の不吉な塊を吹き飛ばす力がある。レモンがもたらした幸福から、丸善に入り、私は最後に爆弾に見立てて店を後にした。レモンの黄色とその他の色のコントラストが、想像しながら読むと見事であり、視覚的にも楽しむことができる。(田中)
幸田文
『台所のおと』
講談社文庫/本体580円+税
きよは稼いだお金で下駄を買うのがささやかな楽しみだった。下駄屋で鼻緒の締め具合を(一度締めただけで)覚えてくれる青年に出合う。ある日、きよは新作の高価な下駄に見惚れてしまう。青年はきよに下駄を作って贈る。「くせ」のある木で作られたものだったが、きよは大切に履き、しまっていた——下駄を巡る淡くて切ない物語「濃紺」を収録する短編集。(田中)
太宰治
『お伽草紙/新釈諸国噺』
岩波文庫/本体850円+税
あの太宰治がこんなに面白いパパだったなんて! 防空壕で娘に絵本を読み聞かせるお父さんですが、馴染み深い昔話を前に妄想が大暴走。頭の中で浦島太郎のカメを毒舌家に変換したり、かちかち山を若い子好きのおじさんたぬきの哀愁話へとリメイクしたりと大はしゃぎ。ニヤニヤが止まらない絶妙パロディーをお楽しみあれ。(任)
織田作之助
『天衣無縫』
角川文庫/本体640円+税
織田作之助の作品は、苦難に負けないパワー溢れる大阪の人々が主人公です。地を這いつくばって生きる姿に、後ろ向きな心を吹き飛ばされます。ところで、題名の四字熟語の意味が気になったとしても、スマホや電子辞書で絶対検索しないでください。この小説を読んだ方が単語の意味を奥深くまで直に触れることができると断言します。(母里)
安部公房
『砂の女』
新潮文庫/本体520円+税
「慣れの怖さ」。これは読了時の感想である。昆虫採集にやってきた男は女の罠にはまり、砂穴に閉じ込められる。そこから脱出を図ろうと懸命に努力する。焦り、不安、憤り、諦め——。たくさんの感情が渦巻くが、男はなかなか砂の生活から抜け出せない。しかし、ある日、砂穴から抜け出せるチャンスがやってくる。そこで男がとった行動とは。(田中)
三島由紀夫
『美しい星』
新潮文庫/本体630円+税
ある日突然宇宙人であることを意識した一家の物語。この本は三島由紀夫の独特な表現で書かれているので少し読むのが大変だが、その独特な世界観に引き込まれてしまう。後半にみられる人類を救いたい宇宙人と、人類を滅亡させたい宇宙人の激論は読み応えあり。僕は三島由紀夫の作品の中ではこれが一番お気に入りだ。(河本)
エミリー・ブロンテ〈河島弘美=訳〉
『嵐が丘 上・下』
岩波文庫/本体(上)840円+税、(下)970円+税
これぞ、ナンバーワン・ドロドロ愛憎劇 。荒野にある一軒家を借りた青年は、大家の住む館「嵐が丘」に出入りするようになり、館の奇妙な人びとに興味を抱くようになる。どこかおかしい荒野の人間関係を編み出したのは、三代に渡り二つの家を翻弄した一大悲劇だった。語りの巧さに引き込まれてページをめくる手が止まらない。(任)
サマセット・モーム〈金原瑞人=訳〉
『ジゴロとジゴレット』
新潮文庫/本体630円+税
短篇小説が八篇収録されているのだが、それぞれ別人が書いたみたいに雰囲気や題材がばらばらで驚いた。おまけにどの物語もジェットコースターのように展開が速いので、ぐいぐい話に引き込まれてしまう。ユーモラスな話も読後感の悪い話もあるが、どれも心の機微を鮮やかに描き出していて、文句なしの「傑作」だと思う。(北岸)
アガサ・クリスティー〈田村隆一=訳〉
『ねじれた家』
ハヤカワ文庫/本体800円+税
人物、作品すべてが歪んでいます。マザーグースの歌が中心で事件が起こるなか、それにつれて登場人物もどんどん疑心暗鬼になり、とにかく不気味。その雰囲気で最後の最後まで犯人がわからないつくりになっています。読者を最後まで惑わせる作品こそ、まさに現代のミステリー小説の礎です。(母里)
ジョージ・オーウェル〈高橋和久=訳〉
『一九八四年』
ハヤカワepi文庫/本体860円+税
あなたはSFを読んだことはありますか? これを読むときっとSFが好きになるはず。こちらは海外の文豪、ジョージ・オーウェルの作品。時は1984年、オセアニアという超大国では「ビッグ・ブラザー」を頂点とする「党」に支配されていた。常に監視され、思考を制限された世界に生きるウィンストン・スミスという一人の男の物語。(河本)
フーケー〈柴田治三郎=訳〉
『水妖記』
岩波文庫/本体480円+税
美しき水の精霊、ウンディーネと若い騎士の出会いから物語が始まります。二人は惹かれあい精霊と人間の違いをものともせず、結ばれます。まるで女の子向けのおとぎ話のようにきれいな恋物語でありながら、後半は切ないラストに向けて読者を突き放します。精霊と人間、種別を越えた残酷な悲恋にラストを何度も読み返すかも。(母里)
ジュール・ヴェルヌ〈鈴木啓二=訳〉
『八十日間世界一周』
岩波文庫/本体1,070円+税
二万ポンドと名誉を賭け、八十日間世界一周に挑むフォッグ氏だけど、その道中はとにかくトラブル続き(生贄にされかけの未亡人を助けたり)。しかもフォッグ氏には銀行強盗の疑いがあって刑事の追跡が……あれ、一緒に世界一周!? 「文豪」のイメージを裏切るどたばた冒険活劇。今なら飛行機でひとっ飛びなのに、19世紀って大変だ。(杉田)
J・D・サリンジャー〈村上春樹=訳〉
『フラニーとズーイ』
新潮文庫/本体630円+税
フラニーという女子大生がズーイというお兄ちゃんに元気づけられる長篇小説なのだが、私がこの作品で一番好きなのはズーイの章の冒頭部分だ。イケメンの入浴シーンをここまで長々と書いてある小説を私は他に知らない。イケメンが大好きな方は是非想像をたくましくして本書を読んでほしい。うっとりとした気持ちに浸れます。(北岸)
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