いずみ委員Selection
わたしの「青」

特集「Blue」記事一覧

『読書のいずみ』委員Selection わたしの「青」
視覚的だったり、イメージ・世界観だったり、気持ちだったり……今回は、『読書のいずみ』委員にとっての「Blue」ならコレ!という本を集めてみました。


  • メーテルリンク〈堀口大學=訳〉
    『青い鳥』
    新潮文庫/本体460円+税

     皆さん一度はこの本のタイトルを見たことがあるかと思います。チルチルとミチルが「思い出の国」や「未来の王国」など様々な場所を冒険しながら青い鳥を探しに行きます。青い鳥はどこにいるのか、幸せはどこにあるのか。読めばあなたもこの不思議な世界に引き込まれ、「本当の幸せ」とは何か考えること間違いなしです。(河本)


  • H・P・ラヴクラフト〈大西尹明=訳〉
    『ラヴクラフト全集 1』
    創元推理文庫/本体700円+税

     今日ではそのキャラクターばかりがひとり歩きしているクトゥルフ神話だが、その原典は背筋も凍るような恐ろしさを誇ることをご存知だろうか。暗く湿っておぞましい港町が訪問者に牙をむく怪奇譚「インスマウスの影」を含む全四編を是非あなたの目で確かめて欲しい。そして顔が蒼ざめるほどの恐怖を味わって欲しい。(笠原)


  • ほしおさなえ
    『活版印刷 三日月堂 星たちの栞』
    ポプラ文庫/本体680円+税

     苦しい時に、読みたくなる。川越の小さな印刷所に、久々に灯がともった。秘密を抱えた若い女性店主が再興したのは、活版印刷。お客の抱える様々な悩みは、注文した栞やコースターの上で活字と言葉となって昇華されていく。さらっと読めるのに、涙なしには本を閉じられない。悲しみと不思議な強さを持った物語たちだ。(任)


  • ユキノ進
    『冒険者たち』
    書肆侃侃房/本体1,700円+税

     本書収録の連作「水がおぼえていること」の短歌は、1首を例外にすべて水を思わせる表現を含む。海、お冷、雨、ユニットバス、噴水、井戸。水はめぐりながら記憶する。〈私〉の異動を。送別会を。仕事を。暮らしを。人工が自然の対義語でも、私たちの暮らしは自然のなかに避けがたくある。
    いなびかり絶えない星のわたつみに何度もなんども降り続けたこと(「水がおぼえていること」)
    (杉田)


  • 長野まゆみ
    『あめふらし』
    文春文庫/本体533円+税

     表題の「あめふらし」とは、2本の角を持つ軟体動物ではなく、死者のタマシイを捕まえ現世に繋ぎとめる者を指す。青というより灰青色のイメージ。巧みな比喩表現に惑わされて、いつしか現実と夢、現在と過去、生者と死者の境目があやふやになっていく。まるで霧雨に煙る街の中を歩いているようだ。しっとりと雨に濡れたくなった。(北岸)


  • 原田マハ
    『たゆたえども沈まず』
    幻冬舎文庫/本体750円+税

     この四重奏は絶え間なく流れる、あの川のように重厚だ。名だたる画家ゴッホの苦渋に満ちた半生を、ゴッホを支える弟テオ、パリに浮世絵をもたらした二人の日本人画商の足跡を絡めて描き出す。史実と創作の圧倒的な融合と、豊かな人物描写で一気に読めてしまう。次にゴッホの絵を目にしたとき、あなたはどう感じるだろうか。(任)


  • 泉鏡花
    『高野聖』
    角川文庫/本体438円+税

     高野山の旅僧が語るは、ある山で艶めかしい婦人に川で背を流してもらい、ひと晩お世話になった話。その川の青さは妖しい魅力をもって120年経った今でも鮮明に私たちの前に現れるだろう。古き良き言の葉で紡がれた幻想的な物語は不思議なリアリティを持って体に染み渡り、結末に差し掛かったところで一気に体を冷やす。(笠原)


  • 井上たかひこ
    『水中考古学』
    中公新書/本体800円+税

     皆さんは水中考古学という学問をご存じでしょうか。簡単に言えば、海底など水の中に眠る遺跡や沈没船を発掘、保存、調査する学問です。この本では、クレオパトラの宮殿や元寇の船、タイタニック号など多くの事例について知ることができます。この本を読んで海中に眠る遺跡や船にロマンを感じてみてはいかがでしょうか。(河本)


  • 飛鳥井千砂
    『海を見に行こう』
    集英社文庫/本体460円+税

     世の中の人がみんな自分と同じ考え方をしているとは限らない。むしろ違うことのほうが多い。当たり前だけど、忘れがちなこと。本書を読んで、そのことを強く感じた。海辺の町を舞台に、人生に迷う6組の男女を描いた短編集。世の中には完全な正解も間違いもなくて、みんな迷いながら懸命に生きている。久々に海を見たくなった。(北岸)


  • カズオ・イシグロ〈土屋政雄=訳〉
    『日の名残り』
    ハヤカワepi文庫/本体760円+税

     英国の老執事スティーブンズは国内旅行を通して過ぎ去りし日々を回想する。青年時の回想から浮かび上がる、古き良き英国社会や優しく誇り高き元主の秘密、同僚の女中とのお互い素直になれない関係は老いた執事に気づきを与える……。タイトルの「日」は何を表すのか、多様な解釈を楽しみながら人生の深みに気づく一冊。(岩田)


  • 冲方丁
    『天地明察』
    角川文庫/本体(上)640円・(下)552円+税

     徳川家綱の治世、とある計画が始動した。それは日本独自の太陰暦を作成し、改暦を行うことである。この国家プロジェクトを担うのは碁打ちの家系に生まれ算術をこよなく愛する男、渋川春海であった。彼の冷静沈着さの中に垣間見える算術への情熱によって私たちの心まで熱く燃え上がること必至である。歴史小説としても、青春小説としても魅力に満ちている一冊。(岩田)


  • 小川一水
    『老ヴォールの惑星』
    ハヤカワ文庫JA/本体760円+税

     本書収録「漂った男」の舞台は、海に覆われた無人の惑星・パラーザ。そこに不時着したタテルマ少尉は、“死なないが見つからない”一人きりの遭難者となる。帰還の希望はなく、漂うしかないなか生きる理由になるものとは——? 救難隊・タワリ中尉との通信機越しの会話たちは、青一色のなかだからこそ際立つ。設定の妙と物語の力強さが光る最上のSF。(杉田)


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