卒業生のひとりごと 特集編
青色の気持ちに浸したパンの味

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卒業生のひとりごと 特集編 青色の気持ちに浸したパンの味

青色の気持ちに浸したパンの味

 どうしても気持ちが明るい色にならない「ブルーな日」というものは、定期的に訪れるから困ったものです。カフェオレに浸しすぎたクロワッサンみたいにベシャベシャになった気持ちを持て余してしまうときは、あえて溶けるまでその「ブルー」に思いきり浸ってみるのも乙なものです。

 ブルーな気持ちを盛り上げる(?)ためには、まずBGMを用意します。ゆったりとしたクラシックや静かなオルゴール、憂鬱な歌詞の曲など、沈むだけ沈めるものがベスト。明るい曲調のものを選ばないところがポイントです。特にピンとくるものがなければ、BGMはなしでもOK。
 次に楽な服装に着替えます。既に部屋着やパジャマ姿なら、そのままで。ブルーに思いきり浸る日は、「外出」は選択肢にありませんので、メイクもヘアセットもしません。顔を洗うくらいはしても良いと思います。
 準備ができたら、軽くつまめるお菓子や飲み物、読みかけの本などをベッドから手が届く場所において、お布団にもぐりましょう。ベッドの中でお菓子を食べたりするのはお行儀が悪いのであまり褒められたことではありませんが、ブルーな日くらいは、少しくらいシーツにビスケットの欠片をぽろぽろこぼしてしまったとしても、許されるはずです。
 そして最後に仕上げとして、連絡端末を放り投げましょう。ブルーに浸っている最中に自分以外の人間と言葉を交わすと、ろくなことがないからです(経験談)。

 あとは自由にすごすだけ。小さく流れるBGMになんとなく耳を傾けながらうとうとしても良いし、本格的に眠ってしまっても良いし、お菓子をつまんでも良いし、気の向くままに本の頁を捲っても良い。泣きたい気持ちになったら泣けば良いし、鬱々としたポエムが思い浮かんだらノートの切れ端かチラシの裏にでも書いておけば良い。おそらく翌日になったらポエムは破り捨てられることでしょうが、「書く」という行為は気持ちを楽にしてくれるものだと思いますので、無駄にはならないでしょう。
 ブルーに浸る場合に大事なことは、無理に明るい気持ちにしようと頑張らないことと、沈んでしまっている気持ちに寄り添うこと。べつに誰かに見せるわけでもないので、無理に口角を上げたりする必要もなければ、上っ面だけのポジティブな言葉を口にする必要もありません。

 ブルーに浸っているとき、ベッドの中でどんな本を読みましょうか。憂鬱なエッセイも良いし、かみしめるように読める詩集も良いし、眺めているだけでも楽しい写真集や絵本も良いし、読んでも読んでも終わらない長編小説も良いですね。
 もしも毎日頑張りすぎて疲れてしまっているようなら『あやうく一生懸命生きるところだった』(ハ・ワン〈岡崎暢子=訳〉/ダイヤモンド社)はいかがでしょう。このエッセイの著者は、40歳になったとき「今日から必死に生きないようにしよう」と決めて会社を辞めたそうです。「一体何のために必死に頑張っているんだろう?」と、ふとした瞬間に思ったことがある方なら、きっと何か感じるものがあるはず。良い意味で気が抜けるような、ゆるくてかわいい挿絵も味わい深くて魅力的です。
 優しい物語に触れたいときは、ほっこり楽しめる漫画『ねこと私とドイッチュラント』(ながらりょうこ/小学館)を。なんでもない日々の慈しみ方を、改めて教えてくれるあたたかい作品です。日本からドイツのベルリンに移住したトーコちゃんと、二足歩行&おしゃべりができる猫のむぎくんの何気ない毎日の生活が描かれています。まったり読みながらドイツの文化に触れることができるのも、面白いところ。わたしはあまり旅行がすきではないのですが、これを読んだ後はドイツに行ってみたい気持ちになりました。2巻でトーコちゃんとむぎくんが訪れるクリスマスマーケットには、ぜひ一度足を運んでみたいものです。異国の暮らしについて書かれた本は、ベッドの中にいても遠い場所に連れて行ってくれるので、家から一歩も出たくない日にもぴったり。

 しばらくブルーな気持ちに浸っていると、そのうち飽きてきます。飽きたら、ベッドから起きだしてBGMを消し、お風呂に入ったり温かいものを食べたりストレッチをしたりしましょう。きっと明日は、さくさくの焼き立てクロワッサンみたいな気持ちに戻れるはずです。
  • ハ・ワン〈岡崎暢子=訳〉
    『あやうく一生懸命生きるところだった』
    ダイヤモンド社
    本体1,450円+税
  • ながらりょうこ
    『ねこと私とドイッチュラント 1〜3』
    小学館
    少年サンデーコミックススペシャル
    本体(各)648円+税
P r o f i l e
門脇みなみ(かどわき・みなみ)
『読書のいずみ』卒業生。ブルーな気持ちに浸るプロです。

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