著者からのメッセージ 今こそ、本を読もう(1)
山崎 聡一郎

大学時代は人生の無敵期間だ

山崎 聡一郎Profile

著書紹介


『こども六法』
弘文堂/本体1,200円+税
いじめや虐待は犯罪です。でも法律を知らずに、大人が気づいて助けてくれるまでたった一人で犯罪被害に苦しんでいる子どもがたくさんいます。もし彼らが法律を知ることができてそれを武器にできたら、勇気を出して助けを求めることができ、救われるかもしれない……子ども向けと侮ることなかれ。大人にもたくさん知らないことのある法律の世界を、わかりやすく解説してくれる一冊です。
「大学時代は人生の夏休みだ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。高校までの勉強や部活などの「やるべきこと」に追われることがなく、自分の自由に時間を使うことができ、その気になれば好きなだけ遊び惚けることができる大学時代を揶揄する言葉です。皆さんの中には「そんなことはない、勉強しなきゃ!」という方もいれば、「その通りだ、思いっきり遊ぶぞ!」という方もいるでしょう。私はその両方をとことん突き詰めればいいと思いますが、「人生の夏休み」という表現について言うならば、それはあまりにも大学生という特権的身分を矮小化する悪意に満ちた言葉だと思っています。私に言わせれば大学時代は人生の夏休みなどという呑気なものではなく、スターを入手した赤帽のおじさん宜しく、「人生の無敵期間」とでもいうべき最強の期間です。それは大学を卒業してからもやってくる夏休みとはまるで別格の、特別ワクワクする期間なのです。
 大学生という特権的身分は最強です。学生割引で日本全国を見て回ることもできれば、一般の人は会うこともできないような最先端の研究者から直接学び、あるいは他大学の教授でも頼めば高い確率で会ってもらうことができます。一流企業の社長、国家の中枢で働く官僚や政治家、凄惨な事件や事故の当事者や遺族、本気の大学生活を通じて獲得できる人脈は有意義な友人関係を超えたものです。あらゆる人生経験を持つ先人たちとの交流は文字通り想像を絶する視野の広さを実現してくれます。
 私の著書『こども六法』は当時築いた人脈が大きな後ろ盾となって出版が実現しました。また、こども六法は元々大学三年生の頃に作った本でしたので、大学時代の成果とも言えます。一緒に執筆してくれた友人、内容を監修してくださった先生方、広めて下さった方々も講義を受けていた先生の紹介だったりします。大学での研究や人脈作りをただの退屈なお勉強にしておくのはあまりにも勿体ない話です。あなたが作りたいもの、やりたいこと、知りたいことをとことん突き詰める、人生にまたとない機会なのです。
 もちろん、無限とも思えるほど自由に使える時間をひたすら遊興に費やすのもいい選択です。その場合は「仕事になるまで遊ぶべし」です。私が写真の仕事を引き受けているのも、ミュージカル俳優をしているのも、大学時代の趣味が出発点になっています。「大学はいかにさぼって遊ぶか」というのは言語道断ですが、「大学は勉強をしに行っている」だけでもありません。学びと遊びをともに極めるべきなのです。
 それでは、学びと遊びをともに極めるなどという無茶苦茶な大学生活を実現するにはどうしたらいいのでしょうか。それは、自身の人生を定義しておくことです。自分は死ぬとき、何を成し遂げて果てたいか、友人や家族にどんな人物だったと言われたいか。これが決まっていれば、大学生活で次々に現れる「やりたいこと」と「やるべきこと」をうまくさばいていくことができるようになります。
 私はいじめの被害経験者、そして加害経験者として、少しでもいじめの問題をマシにして世を去りたいと考えました。また、エンターテイメントを通じて人を笑顔にすることに積極的な人物でありたいと考えました。このように人生を定義すると、時間に余裕のある大学時代と言っても、無駄に使える時間は殆どありません。時間の浪費にしかならない無駄な遊びや、興味もないのに楽単だからという理由だけで履修する授業などに費やす時間は自然と遠ざけるようになっていきます。結果的には成績評価が厳しい授業ばかりになったり、毎日帰宅してすぐに倒れこんでしまうほど遊び疲れたりする日々になりますが、「無駄のない」スケジュールが実現していきます。重要なのは、ここに「学び」と「遊び」の両方が含まれている点です。それぞれがそれぞれの息抜きになるため、四年間で飽きることがありません。
 もちろんここで書いた「私の大学生活」はあくまでも事例の一つでしかありません。あなたにはあなたの大学生活があります。大切なのは、その一日一日に、ちゃんとあなたなりの理由付けができているかどうかなのです。
「若者」は若者であるだけで大人から叩かれますが、その主たる対象となるのは大学生です。しかし、大学生は新たな知見やサービス、プロダクトを創造する力と、とことん遊ぶバイタリティを兼ね備えているという意味で、大人にとっての「脅威」です。世界を動かすのは自分たちなのだという気概と自信をもって、後悔のない大学生活を追究してください。そして、あなたにしか成しえない大学時代の成果を世に出してほしいと思います。私の『こども六法』が世のいじめ問題に一石を投じることに成功したように、あなたの経験と知見に基づくアウトプットを今、世界が必要としています。大学時代にはそれを成し遂げるロマンがあると思うと、ワクワクしてきませんか。
 
P r o f i l e

山崎 聡一郎(やまさき・そういちろう)

教育研究者、ミュージカル俳優、写真家。
慶應義塾大学総合政策学部卒業、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。大学時代は家庭の経済事情から一人暮らしが叶わず、通学に片道三時間をかけながら週三回の合唱サークルの活動に参加。友人の家を転々としたほか、大学の教室や大学近くの駅で寝泊まりするなどのホームレス生活も経験。一方でテーマパークを愛し、年間パスを使って4年間で100回以上通い詰めた。三年時にはオックスフォード大学に短期留学して単位を取得。また同年より二年連続で研究奨励金を受給し、「こども六法」「こども六法すごろく」を制作した。卒業時は学位記授与学部総代に選出され、卒業論文は優秀卒業プロジェクトに選定されている。
大学院在学中には劇団四季のオーディションに合格し、「ノートルダムの鐘」に出演。大学院修了直後に「こども六法」を上梓し、刊行から半年を待たずして発行部数50万部を突破した。座右の銘は「二兎を追うものは三兎以上を得る」。


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