コロナ生活の中で大学生が読んだ本

特集「コロナと向き合う」記事一覧

今年4月、緊急事態宣言が発令され自宅にこもっていた日々、時間を持て余して読書に没頭した方も少なくないのではないでしょうか。みなさんはあの時、どんな本を読んでいましたか。そしていま、何を読んでいますか。ここでは、いずみ委員と読者スタッフが自粛期間中に読んだ(選んだ)本をご紹介しましょう。


  • 金子みすゞ、彩図社
    『金子みすゞ名詩集』
    彩図社/本体571円+税

    鬱屈した雰囲気に嫌気がさしたとき、一遍の詩に喝を入れられる。「海を歩く母さま」だった。この詩の中で、母さまはみすゞを置いて海の上を一人で歩いて行ってしまう。幼いみすゞは、それを「えらい」といって自分を励ます(勝手な解釈だけれど)。やるせない現実に向き合う小さな子の姿を想像し、その力強さにゾクッとした。(磯部)


  • Steven Galloway
    The Cellist of Sarajevo
    Pearson/本体710円+税

    内戦中のサラエボでは、市民が道路を渡るだけで狙撃されるのが日常だった。外出自粛と感染不安のストレスよりもずっと重い世界で必死に生きる人々の姿が、静かな恐怖と、なぜかどこか通じるものと共に胸に迫ってくる。新型コロナが収束したら、原書を読むと決めている。あのサラエボの街を、私はどう感じるのだろう。(沼崎)


  • 今村夏子
    『星の子』
    朝日文庫/本体620円+税

    私は主人公、ちひろにイライラした。両親が子を思って怪しい宗教にのめり込み、姉は家出、親戚・学校からも孤立していく。なのに、本人は能天気。クッキーに伸ばそうとする手を叩きたい。でもこの気持ちが、閉鎖的な世界で生きているちひろへの希望だと気付いた時、ドドドと余韻が襲ってくる、そんな一冊。(木村)


  • 津原泰水
    『11——eleven』
    河出文庫/本体640円+税

    予定していた少し先の未来と現実が乖離していく現在、こんな事態になければ会わなかっただろう話に考えさせられた。ネットで全文公開されていた本書の収録作「五色の舟」だ。見世物として生計を立てていた一団を待ち受ける“別の世界線”。読了後の思考量に反してサクッと読める文量なのもおすすめ。(畠中)


  • 太宰治〈今井キラ=絵〉
    『女生徒《乙女の本棚》』
    立東舎/本体1,800円+税

    高校生の時、心ときめくイラストに一目惚れして、祖母に買ってもらった一冊。これで読書感想文を書いたんだっけ、と思いながら久しぶりに表紙を捲る。ただでさえセンチメンタルになっているのに、さらに厭世的になる本を読んでどうするのだと言われるかもしれないが、それでいいのだ。まだ彼女に共感できる自分に安心した。(川柳)


  • 森絵都
    『カラフル』
    文春文庫/本体620円+税

    疲れたときこそ、こんなド直球にまっすぐな小説が読みたい。前世で罪を犯した「ぼく」の魂に訪れたチャンスとは、自殺を図った少年の体でのホームステイ?! 円満にみえるステイ先の家族や気になる女の子はみんな何かしら抱えている。周囲の人々の過ちと対峙しながら、「ぼく」は世界と向き合いはじめる。(任)


  • 吉本ばなな
    『キッチン』
    角川文庫/本体400円+税

    身寄りをなくした女の子は突然大学の同級生の家に居候することに。第一部では同級生と、彼の癖の強い親が主人公を救います。第二部では成長して自立した主人公に同級生の危機が告げられ……某俳優さんの自殺を受けて連想した本ですが、コロナ社会で孤独が強調された私たちにも必要な物語だと思いました。(岩田)


  • 凪良ゆう
    『すみれ荘ファミリア』
    富士見L文庫/本体640円+税

    下宿屋「すみれ荘」を舞台とした連作短編集。どの話も人間の持つエゴが色濃く描き出されていて、リアルに怖い。しかも動機が「愛」ときている。愛があれば何をしてもいいわけじゃないだろうと思うけれど、不器用にもがく登場人物たちの気持ちも理解できてしまう。重くて深い話で、とても読みごたえがあった。(北岸)


  • 須川邦彦
    『無人島に生きる十六人』
    新潮文庫/本体460円+税

    「15少年漂流記」が明治時代に太平洋で実際に起きていた! ハワイ諸島で生死をさまよった末の16人の波瀾万丈な無人島生活は、日時計やウミガメ牧場を作って、アザラシと仲良くなるなどまさに愉快痛快。船長が掲げた「明るく愉快、規則正しい生活」通りの船員たちの素直で前向きな姿に元気づけられます。(岩田)


  • 白川紺子
    『下鴨アンティーク 
    回転木馬とレモンパイ』

    集英社オレンジ文庫/本体570円+税

    本をきっかけに親しくなった友人が勧めてくれた。物語のなかで、毎月第3水曜日にレモンパイを焼くという習慣が出てくるのだが、空想を頭の中で留めておけない私は、こういったことをすぐに真似したくなってしまう。読書の時間はもちろん、レモンパイ作りという楽しみを与えてくれた本と友人に、感謝の気持ちでいっぱいだ。(川柳)


  • 鷺沢萠
    『ウェルカム・ホーム!』
    新潮文庫/本体490円+税

    好きな作家の作品なのでつい購入。私たちの作る「普通」と「ヘン」は時にその定義をする自分ですら苦しくなる。この本に登場する人たちはそれと七転八倒して向き合いつつ自分たちにとっての「普通」を確かに愛していて……泣きたくなるような、けれど心が温かくなる話でした。(長田)


  • 加納朋子
    『ななつのこ』
    創元推理文庫/本体600円+税

    じっくりゆっくり読みたくて、長い間実家に眠らせてしまったこの本。ようやくこの時が、と夢中でページをめくっていきました。美しく瑞々しい文章で描かれる、日常に潜む大切な謎たち。人物たちの繊細な感情。そして『ななつのこ』という物語とある二人の文通。寂しいけど暖かく、懐かしい。不思議な気持ちに包まれました。(徳岡)


  • ドナルド・J.ソボル〈武藤崇恵=訳〉
    『2分間ミステリ』
    ハヤカワ・ミステリ文庫/本体520円+税

    ストレスの溜まる自粛生活中には息抜きも必要でしょう。そんなときにおすすめなのがこれ。制限時間2分という短い時間で推理クイズに挑戦することができます。2、3ページに事件の概要が書いてあり、そのなかにある名探偵ハレジアン博士の見抜いた真実を共に明かすのです。計71個の事件が君を待っています!(河本)


  • 青柳碧人
    『むかしむかしあるところに、
    死体がありました。』

    双葉社/本体1,300円+税

    昔話×ミステリーという新感覚な短編推理小説!
    桃太郎や浦島太郎など日本の代表的な昔話を題材にして作られています。一風変わっていながらも、どの短編も一級のトリックが使われているので目の肥えたミステリーマニアの方でも楽しんで読んでいけます。珠玉の、そしていつもの推理小説とはひと味違うミステリーをどうぞ!(田中)


  • 高野和明
    『13階段』
    講談社文庫/本体700円+税

    高校時代にミステリにハマっていた時期があり、その時期に読んだ本の中でも一番スキな本格ミステリ。複数の事件が時間を超えて絡まり合う。死刑についても深い洞察が物語を通してなされている。未読の人、めちゃくちゃおすすめです。後悔はさせません。(末永)


  • さくらももこ
    『もものかんづめ』
    集英社文庫/本体390円+税

    日常につかれた時はさくらももこさんのエッセイを読むのが一番。さくらももこさんのフィルターを通すだけで、銭湯に行くことや睡眠をすることが面白い体験になってしまうから、日常の楽しさを再認識できる。「新しい日常」が始まっても、さくらももこさんのエッセイがあれば楽しいことに溢れているに違いない。(光野)


  • 古市憲寿
    『絶望の国の幸福な若者たち』
    講談社+α文庫/本体780円+税

    ここ数ヶ月、マスメディアがイメージする「若者像」と私の抱く「若者像」があまりにも違うことに違和感を持っていた。本書では、「若者」という言葉がいかに多様化、曖昧化しているのかを丁寧に分析している。抱え込んでいた違和感を、科学的な分析に基づいて言語化してくれた本書は、私の心を癒してくれました。(光野)


  • 永田希
    『積読こそが完全な読書術である』
    イースト・プレス/本体1,700円+税

    千葉雅也先生が帯を書いている、しかも読書術(!?)ということで気になっていた。なかなか手が出なかったが、とうとう買ってしまった。「グッジョブ!」、と最大の賛辞を贈りたくなる本だ。本書は、積読を肯定するのだ。紙の本の大事さ、感じてはいても、なかなか言葉にできないもどかしさがスッキリする本だった。(倉本)


  • 横浜康継
    『海藻ハンドブック』
    文一総合出版/本体1,400円+税

    授業が4月にあまりなかったことをいいことに近くの海辺に時折通っていました。春は一番海藻を観察しやすい季節だと聞いて、本を頼りに漂着した海藻で押し葉を作ってみたり豆知識を仕入れていました。ある種の海藻の花を「なのりそのはな」と呼んでいた古人のセンスに感嘆します。(長田)


  • 牧野富太郎
    『牧野富太郎 なぜ花は匂うか』
    平凡社/本体1,400円+税

    配属研究室の膨大な選択肢を前に迷いに迷ったわたしが、とにかく興味のある分野の本を読んでいこう!とまず手に取ったのがこの本。「日本植物学の父」牧野さんの随筆集です。牧野さんの愛に溢れたまなざしで見つめられた植物たちは本当にきれいで、わたしもたくさんの植物たちに会いに行きたくなりました。(徳岡)


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