Essay 日記の思い出 20年前から来た贈り物

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父との思い出の交換日記

5月19日(金)大雨
 KIDD PIVOT『REVISOR』を観に名古屋へ。初名古屋! が、3時間寝坊!
 おかげで観る予定だった短編映画には間に合わなかったけど、急遽行った「アフリカン現代アート ティンガティンガ原画展」がすごく素敵だった! タンザニアのアーティストのアブダラさん、すごくあたたかい人だった。作品は鮮やかでめちゃくちゃパワーをもらえる! 色数はそんなに多くないらしいけどカラフルに感じるのが面白い。アフリカンアートは神秘性と人々の堅実な日々の息遣い両方が感じられ、「祈り」と「恵み」という言葉が脳裏に浮かぶ。シネマスコーレさんで『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』を観たのも超楽しかった! ポップな会話とかっこいいアクション。もう永遠に来ない「次」の話をする彼らが大好きだった。俳優さんたちにもお会いできて幸せだった。素敵な方たち!
『REVISOR』は圧倒的身体性。激しい動きなのに静か。特にラスト、冬の森の朝焼けのような背景の前で静止する人間のシルエットが美しく胸が震えた。


 今日記をつけるとこんな感じ。普段日記をつける習慣がないのですが、書き出すと楽しくて止まらなくなってしまいますね。でもいかんせん筆無精で2日と続かないんですよね……。
 そんな私ですが、実は幼少期は毎日日記をつけていたのです。といっても一人でつけるのではなく「交換日記」をしていました。
 幼稚園の頃、父が仕事で毎日帰りが遅く、あまり会うことができなくて。そこで母が言ったのが「直接話せないなら、交換日記をすればいいじゃない!」。そんな訳で私と父の交換日記がスタートしました。
 交換日記をつけていたという記憶はずっとあったのですが、内容はさすがに覚えておらず。実家に眠っていた交換日記ノートが今回約20年ぶりに日の目を見ました。
 「きょうはひさしぶりにさきちゃんのおおちいったよ。」
 記念すべき1頁目はこれ。父が毎日日付を入れてくれているのですが、2005年2月19日ということで、当時私は6歳ですね。おっきい字で力いっぱい書いています。しかし読みにくい。「は」が「しよ」に見える。丸々カタカナで書いてる日もある。父は毎日仕事を頑張って深夜に帰ってこんな難解クエストをこなしてくれていたんだなぁ。なんだか胸が詰まります。ありがとう。ちなみにこの日の父からのお返事は
 「さきちゃんのおうちにいくのはひさしぶりだったの?
なにをしてあそんだのかな?
たのしかった?
また、おしえてね。」

でした。

 頁をめくっていくと、少し記憶がよみがえってきました。懐かしい友達の名前とか。そういえばディズニープリンセスではアリエルが一番好きだったな、とか。暴れんばかりの難読文字が多い中、「ゆ」は得意だったんだよな、習字の先生にも褒められたっけ。あ、この「ず」は母の字に似てる。「ゆずのひだりて」、手の外周をなぞって描いたのが載ってる、ちっちゃいなー!
 「そとのにかいのべらんだしたやけどしそうだったよ。あつかったからばあばのひざのったよ。」かわいー。と思って書き出したのですが、きれいに整った文字で読むとなんだか物足りないですね、ちっちゃい子のある意味芸術的な、気持ちが全部のってるような文字だからこそよいのでしょうか。
 「いろんなことがあたらしくなってこれからもたのしくがんばろうね」
 小学校に入学したばかりの4月14日の父からのお返事。なんか、今読んで、きゅっと掴まれました。20年前からのエール。
 「よかったね」「じょうずだね」「またおしえてね」どのお返事もあたたかくて、ちょっと頁をめくるのがしんどいぐらい、心に響いてきて、目頭が熱いです。
 ちなみに、交換日記を考案した時、母は「お嫁さんに行くとき、この交換日記を持って行きね」って言っていたんですよね。母は覚えてないかもしれないけど、私はずっとその言葉が記憶にあって。「これから先色々なことが起こって、それでもこのノートはいつでもお守りみたいに私にちからをくれる」、そんな風に思ってまんまるなほっぺを赤く染めた映像が私の脳内シアターフィルム保管庫には残っているのですが、もしかしたら捏造記録かもしれません。ただ、私も将来子どもができたら、きっと交換日記をしよう、そして将来子どもが家を出るときに持たせよう。なんて考えて、今からわくわくしているのです。願わくば子どもに嫌がられませんように!
 
執筆者紹介
徳岡 柚月(とくおか・ゆずき)
京都大学大学院農学研究科修士2回生。実は日記のノートにFax原稿が挟まっていました。一枚弟が書いたものがあったのですが、絵があまりにもかわいくてグッズ化したくなりました。ちっちゃい子の絵って哲学ですよね。
 
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