全国食堂セミナー 講演「生きる力をつなぐ 〜生協食堂の未来〜」

学生の食生活について

次に、学生さんがどういう食生活を行っているのかを調べるために、各大学生協で、学生さんに実際に食べたものの写真を撮っていただく方法で、「食生活調査」を実施しました。これは昨年の調査結果(写真日記)です。月曜日から日曜日までの間に食べたもの全てを写真で撮ってもらって、何を食べた、どこで食べた、いくらお金をかけた、食べた理由、点数などを書いてもらいました。この方(M君)は非常にある意味、問題が凝縮された典型的な結果を出してきました。

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10月23日(金)のM君の食事日記です。朝ごはんは食べていないです。お昼2時半にカロリーメイトを食べて、200円程度かけました。勉強に集中できないほどお腹がすいたのが理由です。16時、おやつですね、チョコパン150円。この時も勉強に集中できないほどお腹がすいたのが理由です。夕食というよりかは夜食ですね、22時半に卵かけ御飯、1.5合。1.5合というと、Mライス2杯分です。卵が1個じゃ足りないから5個、考えられない食事をしています。お米は実家から仕送りなので、0円。卵5個100円。この方の1日あたりの食事代を平均でだしてみると532円。昨日の講演資料に、単身者は1食あたり260円というデータがありましたが、それをはるかに下回る金額です。1日当たりの摂取エネルギーが1896kcalで、この年代の学生さんからすると平均2500、2600kcalぐらい必要だと思うのですけども、かなり不足をしています。タンパク質が60gに対して50gなので、まずまずかな。脂肪の値がどうしても大きくなります。25gの適正値に対して、55g。野菜料は1日あたり350gが厚生労働省の指導ですけれども、62gで圧倒的に不足しています。

ミールカードを始めた2003年ぐらいにもこういう典型的な学生さんがいましたが、今でも学生さんの生活に変わりはないのですね。

食の問題点をまとめてみました。まずは、食費の節約。とにかく、10円でも20円でも安い方がいい。先ほどの食事の写真は金曜日の写真なのですけれども、初日の月曜日はもうちょっとましだった。だんだん悪くなってきて、この写真の10月23日の金曜日に続き、土、日もほとんど似たような食事だったので、月末が近づいてきてお財布も寂しくなってきたかな、とにかくお金がないという状況ですね。食費を節約する、本来でしたら保護者の方が、一日1000円くらいかかる想定で、1ヶ月だったら3万円を食費代として、アパートの家賃5万円プラスお小遣いを加えて9〜10万あれば生活できるだろうと仕送りしていただけるわけですけども、当の学生さんは食費である3万円を、言ってみるなら流用して他のことで使ってしまう。皆さんも学生時代に経験ありませんか。第二の問題は、欠食、食の簡便化、加工食品への依存ですね。三つ目の問題として、食の知識が不足し、意識と行動のギャップが見られます。本当に学生さんたちは先ほど見たような簡便な食事が大好きで、毎日食べようと思っているわけではなく、やむを得ずに食べている側面があります。でも、本当はこれではだめだなとは思っておられるのですね。1食あたり100円とか200円とかで食べる学生さんの食に生協食堂は価格で対抗出来ますか。100円、200円だと、うどんぐらいが精一杯で、それでは豊かな食生活を学生さんに提供していると言えません。本当に学生さんにちゃんと生協食堂を利用してもらおうと思ったら、まず食育から始めなければどうにもならないのです。

いまのうちに食べておかないと大変なのだよ、この食生活を10年続けたらきっと病気になるよと伝えること。女子だって同じような内容の食事をしている人もいて、20代までにしか骨密度を高められないのだよという話をすると、「え、もう手遅れなのですか?」と驚き食生活改善のきっかけとなるということもありました。まさにそこから始めないといけないというのが当時考えたことです。

先ほどの食生活調査は、昨年実施したものです。定量調査として1000人からアンケートを取り、定性調査として、広島大学と松山大学の学生さん30名の男女に毎日写真を撮ってもらって、それを更に事業連合の栄養士さんに分析してもらってエネルギーや材料の推定をしました。

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朝食の欠食は以前からの問題なので、お分かりだと思います。エネルギー摂取量は3割も不足しています。ひょろっとした学生さんとか、元気なさそうな学生さん見かけませんか。エネルギーの不足は、戦後の栄養失調みたいな状態で、「新栄養失調」と言われる様態があります。よく見ていただくと、もし朝食の欠食をやめたら、エネルギー不足も解消出来るのではないかと思います。野菜量が全然足りていないです。大人も足りていないのですけども、学生さんの実態はさらにひどく、一日必要な野菜量の3割、100gぐらいしか摂れていないのです。野菜をどのようにして摂ってもらうかは大きなテーマです。

それでですね、じゃあ、そういう学生さんの食育から始めて、分かってもらって、食堂に来てもらって食べてもらう。ものすごく気が遠くなるような話なのですね。当時、そういう生活スタイル、食習慣は本当に転換出来るのかと議論しました。誰もが、いいことだと思うけれども、ちょっと難しいのではないかという意見でした。

丁度そういうことをやっている時にヒントは出てくるもので、こんなことがありました。

一つ目のヒントは、鳥取大学での事例です。学長先生から「1限目に学生が出てこないので、出てこさせるために、生協食堂で朝食を無料で提供する。4月の1ヶ月だけ大学が費用の半分を出すから生協も半額持ってもらえないか」と言われて、学長先生がおっしゃるなら、ということで、協力し実施をしました。通常、鳥取大学生協の朝食は1日20〜30名の利用でした。それが、実施をしてみると、新入生900名のうちの600名が毎日来て朝からピークを迎えるという驚くべき現象が、4月の1ヶ月続きました。そこでアンケートをとって、無料期間が終了してからも、ちゃんと朝食を食べに来て、授業に出ますか、と聞きましたら、かなりの割合で、「はい」と答えが返ってきました。ところが、5月に入ったらなんとまた元の食数に戻りました。昨日、関西の木下さんから伺った話では、大阪大学生協で0円朝食というのをやっていて、開店前の30分、1時間前から阪大生が行列を作るという状況になっているそうです。これと同様の現象です。

二つ目のヒントは、よくお話する水産大学生協の「170食まとめ券」の話題です。水産大学校は、水産庁の管轄の大学で下関の海岸沿いにあって、1学年200人という、こぢんまりした大学です。

2002年、「1人の保護者が1年分の食券を購入」とあります。100席ほどの定食型の食堂で、食券を券売機で購入して利用してもらう。定食は3種類の中から選んでもらうという形態だったのですけども、券売機に行列ができるので、10枚をワンセットにまとめたつづり券を売っていたのです。そうしたら、新学期に下宿探しに来られたお母さんと子供さんが、食堂の食券を「授業のある日の分だけ売ってください」とおっしゃられ、授業のある日を数えると170日ありました。驚いて、「お母さんどうされたのですか?」と聞いたら、「うちの子には料理も何も教えていないので、何も出来ません。ところがこちらの食堂のメニューを見させていただいたら、私の子の食事をお任せ出来ると思いました。」という非常にありがたいお言葉を頂いたのですね。その学生さんはですね、当時としては不思議な現象と思えましたが、170枚分の食券を持っているので、毎日食堂に来ます。

その報告を聞いた時に、私たちが同じ年の2002年にアメリカの大学食堂視察に行ったときに見たアメリカの寮食堂のミールカードと重なり、それ(170食まとめ券)はアメリカで行われているミールカード、ミールクーポンの仕組みと考え方は同じだから、その翌年から学生みんなに勧めよう、中四国でもその仕組みに習ってやってみようと勧めた。それがミールカードの始まりで、2002年に、1人の保護者が170食まとめ券を購入したことが発端なのです。

そこで考えるポイントなのですけれども、この二つの事例をどう見るか、鳥取大の朝食会に600人も来た、水産大では、食券を購入した子が毎日食べに来た。中四国でいうと当時の学生さんの1週間あたりの食堂利用回数は1.7回だった。ところがこの子だけは5回、6回来るわけですよね。その時にみんなでいろいろああでもないこうでもないと考えて行き着いたのが次の結論です。

「自分の懐がいたまなければちゃんと食べる!」。これが一番、最大の発見だったのですけれども、もう1つ、「食事は大切」という意識はあるようだ、お金が不要であればちゃんと朝食も食べるわけですし、出されたものも食べる。お金がかかるとなると、先ほどの写真日記のM君のようにチョコパンを買って食べる、そういう生活です。意識はちゃんとあるのだけれども、みんな出来ない。意識を行動に移すことが出来ない、その意識を行動に変える切り札が、ミールカードなのです。

先ほど話題にしたアメリカの大学では、1年生は大学寮で生活を始めます。寮に入るということは、ミールクーポンを購入して、毎日寮食堂で食べることになります。当時、アメリカの担当者の方に聞くと、寮食堂で食べると栄養的に健康になるし、1年生の学生にはちゃんと食べてほしいので、ミールカードを全員に買ってもらっています、と当たり前のようにおっしゃっていました。

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アメリカの大学の、2002年度食堂年間売上高上位10大学を一覧にしています。当時はペンシルベニア大学が第1位にありました。我々が訪問したのは第2位のミシガン州立大学で、学生数4万3000人、食堂の売上高が48億円です。これを在籍者で割ると、日本円に換算して11万2000円、10大学平均でも10万円あったのですね。当時、中四国は2万円です。ところがアメリカは10万円、この5倍の差は何なのかということです。

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フードビジネスから、食育事業に転換しようというテーマがあるのですけども、要するに、今まで我々が取り組んできた食堂事業を改めようということです。ここでいう「フードビジネス」というのは、選択肢の1つとして、食事を購入する食堂、たとえば大学の周辺にあるファストフードチェーンさんであったり、コンビニさんであったり、周辺のパパママ食堂さんと同列に生協食堂もあるような状態です。

同列の食堂として、自らも他社に負けたらアカン、価格だ、品質だと、一生懸命取り組んできました。フードビジネスの分野では負けないよと。ただ、それらの技術を投げ捨ててはだめですよ、それはそれとして置いておいて、仮想の競争相手と闘うのではなく、アメリカの大学寮食堂の様にミールカードを購入していただいて、健康のために食を任せる生活の基盤に変わったらいい。

中四国の場合、自宅外の学生さんはほとんど自転車で5分10分のところの範囲内に住んでおられます。学生さんの居住エリアをアメリカの広大なキャンパスと同様に考えればいい。キャンパスの中の生協食堂で、家庭の食卓のように、保護者の方からお預かりした学生さんに対して、家庭のお母さんの代わりぐらいの意識を持って、きちんとした食事を提供する、そういう生活基盤に変わることを、「食育事業への転換」と表現しました。このように「フードビジネスから食育事業に」と、自分たちのあり方を変えれば新しい事業が展開出来ると思った訳です。

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今度は、ミールカードを利用している学生さんの食事日記です。男子学生ですけど、けっこうガッツリ食べています。朝食はいつも自炊です。パンとマーマレード、スープ、コーヒーかな。この学生さんはわりと定時に食べていまして、朝は必ずこんな感じ。昼は生協食堂。12時15分ですね。スタミナ豆腐、かぼちゃ、ヨーグルト、ハラルチキンカレー、お茶。金額も書いて下さっています。合計522円。「カボチャは風邪予防にいいと聞くので、毎回摂るようにしています。」と可愛らしいことも書いてあったりします。それで夕食ですね。この方、丼と主菜を摂るパターンがけっこうあるのですけれども、牛丼、豆腐、フルーツマンゴープリン、海藻ツナサラダ、オクラ巣篭もり卵、お茶。合計722円。考えていた予算をこの日はオーバーしていますね。このF君の1週間の1日当りの食事代は、1278円です。広島大学の学生で、1日上限1300円コースのミールカードホルダーです。上限まできっちり使っています。エネルギー2297kcal、タンパク質78g、脂肪65g、野菜料176g。野菜ももっと摂った方がいいのではないかとか、脂肪とりすぎには気をつけようね、と教えてあげたら出来る子であるような気がするのです。

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先ほど、学生さんの年間の食総需要は平均20万円と申しあげましたが、現在、中四国でミールカードの販売金額が20万円を超えているコースが5大学の中にあります。ミールカードのコースは、ものすごくたくさんあって、17大学で51コースもあります。各大学生協が、独自性を発揮してミールカードのコースを自ら作っています。岡山大学生協でいうと、1日上限1200円で、年間が、25万8000円。岡山大学は日曜日も営業しているので、一年間347日営業、朝8時から夜10時まで営業しております。ミールカードを始めてから、サービスも拡大し続けています。ミールカードを一括してご購入して頂いた場合は、1万5000円のキャッシュバックがあります。高知大学では、1日に利用できる上限は1200円ですが、朝11時までに利用すると、さらに250円分の朝食がサービスで付いています。高知工科大では、キャンパス内に寮があるので、349日営業。広島大学が今年から200円朝食プラス、島根大学も今年から、300円朝食プラスとなっています。

おかげで、いろいろと評価はあるのですけども、朝食の利用が伸びていまして、会員生協によっては、朝から食堂の席が満席という状況になっています。

さてこういうミールカードの展開によって、中四国は一人当たり利用高を伸ばしてきたわけですけれども、改めてどこまで到達するのだ、到達する目標はいつまでに、どこまで行くのだという食育ビジョンを考えていくにあたって、基本は次のように考えています。