Essay カードゲームで短歌 短歌の世界で待っています。

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なべとびすこ(歌人)Profile
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『短歌カードゲーム  ミソヒトサジ〈定食〉』
鍋ラボ
価格1,700円(税込)
通販価格2,200円(税込)
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短歌のすみっこを伝える WebマガジンTANKANESS

 短歌を始めたころ、友人に「最近、短歌を始めてん」と言うと、「短歌って、なんか難しそう……」という言葉が返ってきた。
 短歌を詠むこと(make)、短歌を読むこと(read)。始める前は私も同じように難しそう、と思っていた。
 たしかに短歌は奥が深い。工夫しようと思えばいくらでもできてしまう難しさがあるし、読み解こうと思っても読み解けない短歌も未だにたくさんある。
 でも、短歌にはそれ以上の面白さがある。
 その面白さをできるだけ「簡単に」伝えるにはどうすればいいのだろう、と思ったとき、ゲームにすることを思いついた。
 短歌を始めてすぐの頃、周りに短歌をやっている人はいなかった。でも、「短歌ってめちゃくちゃ面白い!」と、誰かと遊ぶたびに言い続け、SNSで発信し、読書会などで短歌の本を紹介したりしたおかげで、周りにも同じように短歌初心者の友人が集まるようになった。
 そうしてゲームの案をいくつか作って、試しにイベントでやってみたのが、のちに「短歌カードゲーム ミソヒトサジ」として発売する商品の原型になるものだった。
 5音の言葉と7音の言葉をたくさん用意して、五・七・五・七・七の順番に並び替えるだけで短歌を作る。
 これが想像していた以上に面白く、「短歌って難しそう」と言っている人たちの心を掴むことができた。
 当時は印刷会社に勤めていたこともあり、カードゲームを発注するツテがあったことや、会社の同期がイラストを描くのが上手く、依頼ができたことも幸いだった。
 そうして「短歌カードゲーム ミソヒトサジ」が完成した。
 日常的に5音と7音の言葉を収集した。重複する言葉が無いように、難しすぎる言葉を選ばないように、でも無難すぎる言葉選びにならないように選んだ150枚のカードと、自分で書き込める空白カード、ゲームらしさを出すための特殊カードを含めた商品にした。
 ボードゲームショップや大学生協、小さな書店などを中心に、店舗に足を運んで営業をかけた。嬉しいことにお店の方から依頼がかかることもあった。
 ただ、自分の知らないところで、短歌のゲームではなく面白い言葉を適当に並べるだけの大喜利ゲームとして遊ばれることもあるのが、少しだけジレンマだった。そのため、自分でワークショップを行う際は、短歌の知識や名作短歌を紹介してから始めさせてもらった。
 私の選んだ言葉には、カタカナの言葉やセリフも入っている。それは現代短歌では普通に使われるものだが、短歌に馴染みがない人は、「こんな言葉、短歌に使っていいん?」と言うこともある。だからワークショップには様々な短歌の本を持ち込んで、パラパラ見てもらうことで誤解を解いてもらえるように努めた。実際に、ワークショップに来た方が、後に短歌の本を買ったと聞くことがあるととても嬉しかった。

 カードゲーム以外にも、短歌を知らない人にアプローチする案を、思いつく限りたくさん試した。音楽が作れる友人に作曲してもらい、短歌を取り入れた歌詞をつけて音楽を作ってYouTubeで配信したり、写真をお題に短歌を詠んでもらう企画を開催し、大学で展示会を開いたり、短歌のフリーペーパーを作ったり、ラップのイベントで短歌の面白さをラップしたり……とりあえず思いつくことは極力行動に移す、というスタイルで続けてきた。
 だって、いつどこでだれが短歌に興味を抱くかわからない。そのどこかにいるだれかのために、行動を続けている。
 そして4月からは、新たに短歌のwebメディア「TANKANESS(タンカネス)」を立ち上げた。これまで通り、直接行ける場所にはワークショップに行ったりしながら、自分が行けない地域の人のために、 webでも発信をすることに決めた。
 私は1番辛いときに短歌に出会って救われた。だから、今どこかで辛い思いをしている人が短歌に出会って、少しでも救われてほしいと思っている。
 これはただの祈りや、もしかしたらエゴと呼ばれるものかもしれない。
 でもきっと、同じように短歌に救われた人たちがこれまでいろんなところで行動してくれたおかげで、私は短歌に出会えた。
 だから私も、いつかの誰かに行動し続けるだけだ。祈りながら、一歩ずつ進むしかない。
 
P r o f i l e

なべとびすこ(歌人)
甲南大学文学部人間科学科卒業。大学卒業後に入社した会社で、仕事が上手くいかずに悩んでいた頃、短歌に出会う。短歌の面白さを伝えるため、「短歌カードゲーム ミソヒトサジ」を制作し、各地でワークショップ等を行っている。 2019年4月30日、短歌の「すみっこ」を伝えるwebマガジン「TANKANESS」を発足。

 

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