いずみ委員の聖地巡礼

特集「本が好き! 〜みんなで読書マラソン〜」記事一覧

 

いずみ委員の聖地巡礼 本を読んでいると、そこに描かれている土地を訪れ追体験をしてみたくなることがありませんか。
今回は東北から四国まで、いずみ委員がそれぞれ気になる本の聖地を訪れました。

休憩の冒険
仙台(宮城県)

母里真奈美

 大学生といえば、勉強して、バイトして、たまに本読んで、またバイトして……。その繰り返しに私は、目・肩・腰が痛いです。某栄養剤の宣伝文句に黙ってつられたいところですが、一度息抜きしませんか? もちろん、小説の舞台巡りです。仙台の街は、伊坂幸太郎さんの作品にたくさん登場しています。その中でもJR仙台駅前の“ペデストリアンデッキ”という場所に行ってみましょう。ここは、おはようからおやすみまで人が往来している場所です(渋谷のスクランブル交差点には負けますが)。ここがなんと伊坂幸太郎さんの『アイネクライネナハトムジーク』(幻冬舎文庫)の表紙になっています。この物語は、会社で働き、家族がいて、ほんの少しのいざこざがありながら日常生活を過ごす人々を描いています。そして、この物語のおもしろポイントはもうひとつ。それは、各話の登場人物がどこかでつながっていることです。あの人とこの人は夫婦で、この人はその人と同僚で、その人はあの人と元同級生、という感じです。
 昼夜問わず多くの人が往来するこの場所と、他人に見える人間同士に実はつながりがあるこの作品。この場所を表紙にしたのは、不思議な意図を感じますね。実は、どこかで誰かとつながっているかもしれない。ほら、今すれ違った人とも線でつながるかも。
 続いて、年中じめっとした空気が漂っているトンネルです。この薄暗い感じ、背筋が寒くなります。どこかのRPGにでてきそうというか、宝箱がありそうというか……写真撮っても大丈夫でしょうか? 物騒なものが写らないことを祈りながら、一枚パシャリ。
 ここは伊坂さんの作品に度々登場します。それは、ぜひ本の中から探してください。ところで、先日面白い発見をしました。たまたまある雑誌を読んでいた時、伊坂さんのグラビア写真を目にしました。なんと写真の舞台が例のトンネルではないですか! 驚きつつ、やっぱりここには何かあるのだと勝手に思います。作家さんのインスピレーションを刺激するのかもしれませんね。心霊スポット的な何かではないですよ。
 というわけで、軽く息抜きできましたか? うろうろ動いて逆に疲れたと文句を言われそうですが、活字からの休憩は完了ですね。休憩するための冒険、大学生活が単調になりつつあったらきっと良い刺激になりますよ。
 
  • トンネル
    床の汚れは血痕ではありません。
  • ペデストリアンデッキ
    表紙と見比べるとわかりやすい。ペンギンはいません。

一に止まると書いて
松本(長野県)

田中美里

 本当に正しいことというのは一番初めの場所にあるのかもしれません――この言葉に幾度となく支えられてきた。今回は私の大好きな『神様のカルテ』(夏川草介/小学館文庫)の舞台、松本を巡ることにした。
「365日24時間」と看板を掲げる長野県の本庄病院で内科医として働く栗原一止。これは、一止の妻(ハル)、「御嶽荘」に住む仲間たちや患者さんとの、出会いと別れを通して成長していく物語である。
 早朝、新宿駅を出発し、バスで揺られること3時間で松本に到着。縄手通りを抜けたところにある喫茶店にお邪魔した。硬めのプリンと程よい苦みのコーヒーで一服する。一止も美味しいコーヒーの必要性を説いていたし、ゆっくりスタートしよう。
 お腹も程よく満たされたところで、松本城へ。さっそく中に入り、急な階段を上っていく。「松本を一望できる!」と期待し、天守閣に着くと、あいにくの天気であまり見えない。晴れていればハルと一止が登った御嶽山がよりくっきり見えた、と思うと残念だ。作中では、写真家でもあるハルが松本城の写真を撮る姿を一止が優しく見守る場面がある。言葉を多く交わさずとも寄り添うことができる夫婦って素敵だなと思いながら、お堀のまわりを一周歩いた。
 次に向かったのは物語の舞台とされる病院近くの深志神社。
 突然ですが、深志神社までいきましょう! (略)ついでにイチさんが背負い込んでいる重い荷物も、少し減らしてもらうようにお願いするつもりです――患者が亡くなり落ち込んで帰宅した一止に、こう声をかけたハル。この「心遣い」に、一止と同様私も感嘆してしまった。
 最後は、「居酒屋 九兵衛」のモデルとされる「厨 十兵衛」。登場人物はこの店のカウンターで、恋愛相談から医師としての将来まで、様々なことを語り合っていた。以前私が松本に来たときは未成年だったので外観を眺めることしかできなかったが、今回は遂に中に入ることができた。作中にも「呉春」、「飛露喜」、「信濃鶴」や「杉の森」などたくさんの日本酒が出てくるが、このお店にも多くの日本酒が取り揃えられていた。ゆっくりお酒を飲みながら、鞄に忍ばせてきた『神様のカルテ』を読み返す。舞台となった場所で本を読むとは、なんて贅沢な時間だろう。ふと気がつくと帰りのバスの時間が迫っている!! 最後は酔いも醒めるほどの全力疾走でバスターミナルに向かうという旅の終わりを迎えた。  
  • カエルの像
    ナワテ通りの入り口でお出迎え!
  • 松本城
    「この城、威風堂々たる姿でどっしりと台地に根を下しているように見える」と描かれている松本のシンボル

あやかしに誘われて
調布(東京都)

笠原光祐

 ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲ~  そう、今回私は『ゲゲゲの鬼太郎』の聖地のひとつである東京都調布市にやってきました。ここ調布市は鬼太郎シリーズの作者、水木しげるさんが50年以上暮らした水木さんにとって第二の故郷なのです。
 まず私が訪れたのは、鬼太郎茶屋です。緑豊かな深大寺通りに構えられた古い家屋からは、妖怪が住んでいそうな気配がプンプンします。遠目にもわかる鬼太郎達の絵と巨大草履に、早くも気分が上がりますね。こちらでは「一反もめんの茶屋サンデー」など、鬼太郎にちなんだメニューをいただくことができます。ほかに各種グッズの販売や妖怪ギャラリーもあり、私も水木しげるワールドを存分に堪能してきました。
 続いて調布駅まで移動し、天神通りを抜けて布多天神社を目指します。ここ天神通りでは、各所で鬼太郎達に会うことができました。昔ながらの水木タッチに私も大満足です。道すがら買ったクリームチーズあずき味の今川焼を頬張りながら通りをまっすぐ進めば、布多天神社に到着です。
 こちらの神社は、「延喜式」に名を連ねる多摩地域有数の古社だそうです。少彦名命と菅原道真公を祀る神社で、江戸時代に建立された古い狛犬が鎮座しています。立派な本殿にお参りをした後、周囲を散策してみます。木漏れ日が揺れる境内は空気が澄んでおり、自然と背筋が伸びるようでした。さて、この神社の裏手にある鬱蒼とした森。この森こそ鬼太郎が住んでいるあの森なのです。残念ながら中に入ることはできませんが、森の奥からは何かが潜んでいるような気配がしました。すっかり日も暮れてきたので、最後に鬼太郎おみくじを引いて帰りましょうか。私の今年の運勢は中吉でした。まずまずといったところですね。目玉おやじの運勢指南に耳を傾けながら神社を後にし、帰路につきます。まだまだ名残惜しいですが、充実したプチ旅行でした。
 今回訪れた調布市では市をあげて「ゲゲゲの鬼太郎」を応援しているので、マンホールをはじめ街の随所で妖怪を目にすることができます。妖怪達との出会いを楽しみながら、緑あふれる街並みのもと、心身共にリフレッシュできること間違いなしです。ただし、日が暮れた後の帰り道にはくれぐれもお気を付けください。妖怪があなたを狙っているかもしれませんから。  
  • 鬼太郎茶屋
    2階の資料ギャラリーの充実っぷりはファンも舌を巻くほどです。
  • 天神通り
    かわいい妖怪達に思わず歓声をあげてしまいました。
  • 布多天神社
    立派なお社は荘厳な出で立ち。学業成就のご利益もあるそうです。

春日大社の鹿は熱いキスをするか
奈良(奈良県)

北岸靖子

 奈良と言えば鹿だが、実は奈良公園の鹿はただの野生動物ではなく、春日大社の神様のお使いである。その春日大社では、毎年12月15日から18日にかけて「春日若宮おん祭」が執り行われる。これは春日大社の境内にある若宮神社の御祭神(若宮様)に捧げるための神事で、中心的な行事は17日にお旅所で行われる。そのため、17日の午前0時に若宮様をお旅所にお遷しする「 遷幸 せんこう の儀」が行われる。
美都 みとで恋めぐり』(北夏輝/講談社文庫)の主人公たちはこの遷幸の儀を観に行くのだが、遷幸の儀が終了するのは午前1時前である。終電はとっくに出ているし、寒いし暗い。遷幸の儀は神秘とされていて、この儀式の最中は参道の灯火がすべて消されるのだ。写真撮影はもちろん、懐中電灯を点すことも許されない。冷え症の女性が1人で観に行くのはあらゆる意味で危険である。
 そんなわけで、今回私は遷幸の儀を観に行くことを早々に諦めて、日中に参拝してみた。
 作中では近鉄奈良駅を出たあと登大路のぼりおおじを東に進んでいるが、日中に参拝するなら東向商店街を抜けて三条通を東に進むのがお勧めだ。東向ひがしむき商店街には多種多様なお店が立ち並んでいて楽しいし、三条通には高速餅つきで有名な中谷堂もある。余談だが、この中谷堂は『恋都ことの狐さん』(北夏輝/講談社文庫)で狐さんが大福をせしめるお店のモデルになっている。
 緩やかな坂道を上っていくと、正面に巨大な朱塗りの鳥居が見えてくる。春日大社の一の鳥居だ。鳥居を潜ってしばらく歩くと、向かって左手に四角い空き地がある。ここがお旅所だ。毎年おん祭の日にはここに若宮様のための行宮あんぐう(仮御殿)が建てられるのだが、お祭が終わると跡形もなく解体されるため、今は建材すら見当たらない。
 手水所てみずしょで手と口を清めて御本殿へ参拝したあとで、境内の奥にある若宮神社に向かった。若宮様は正しい知恵をお授けくださる神様だそうだ。わたくしにも正しい知恵をお授けください、なむなむ、と両手を合わせてお祈りしてきたところ、帰り道でなんと鹿がキスしているところに出くわした。枯草の上に座っている雌鹿に牡鹿がキスしていたのだ。鹿もキスするのか! ロマンチック! これは是非読者の皆さんにご報告せねばと思って、カメラを構えた。しかし私がシャッターを切るより早く、牡鹿はすいっと離れていった。恋路を邪魔してごめんなさい。  
  • 若宮神社
  • 春日大社の石燈籠と鹿

遠い、近い、君の家
高知県

杉田佳凜
 
有川浩『空の中』(角川文庫)
 主人公の一人・斉木瞬が高知県の仁淀川河口で謎の生物を拾うのが物語の始点の一つ。もう一つの舞台は自衛隊岐阜基地。

有川浩『県庁おもてなし課』(角川文庫)
 実在の高知県庁「おもてなし課」がモデル。主人公たちが高知の観光発展に奮闘していて、高知を好きにならないわけがない。

【1日目 『空の中』聖地巡礼】
8:20  広島駅を高速バスで出発
14:30 高知県いの町観光協会に到着
 今から仁淀川河口まで往復するとレンタサイクルの返却時間ギリギリだと教えられ、サイクリングがタイムアタック化する。川と空の広さにわくわくしながら走り、この川幅は海だろ……と思ったころ仁淀川河口大橋に到着。ここで瞬は謎の生物・フェイクを……と感慨に浸りたいのに、右岸?左岸?とうろついて、どうにも締まらない。
16:00 仁淀川河口大橋を出発
「遠いなー」と思いながらまたタイムアタック。帰り道ではなく、自分と仁淀川が遠い。『空の中』の仁淀川は、舞台や背景というより、瞬や宮じいたちが暮らす「土地」だった。だから訪れただけじゃ、そこで暮らす彼らの感覚は分からない気がする。来てよかった。けど寂しい。そう思いながら彼らの土地を走り抜けた。
17:00 レンタサイクル返却

【2日目 『県庁おもてなし課』聖地巡礼】
11:00 チェックアウト後、ひろめ市場へ
 土曜日なので、日曜市の代わりにひろめ市場(高知の郷土料理・お土産・インド料理・雑貨……)へ。ごちゃっとした雰囲気が楽しく、宝探し気分で昼食と買い物。
12:50 高知県庁外観見学
 次の目的地を決めようと腰を落ち着けた場所が、駐輪場でニヤリ。ここが掛水(主人公)と多紀(ヒロイン)出会いの場。
13:00 自由徘徊
 旅行が好きなこともあって『県庁~』は「分かるー!!」の嵐だったけど、実際に高知に来るとあちこちでニヤリとしてしまう。“土佐せれくとしょっぷ てんこす”では『県庁~』を読んで絶対行きたいと思っていた馬路村のグッズを発見。
16:13 高知駅出発
 ドタバタの聖地巡礼もこれでおしまい。充実の一泊二日だったけれど、見逃し、食べ逃しもたくさん……これはまた来るしかないでしょう! と観光パンフレットを読みながら電車に揺られる。このパンフレットも「おもてなし課」が作ったのかも……?  
  • 昼食に『県庁』登場のツガニ汁とイモ天。カニの風味がふんわり口中に広がる贅沢。
  • とにかく川も空も広い! ひたすら川沿いを走っていた。
    仁淀川河口大橋の橋脚の根元。本当に聖地か不安(右岸海側から撮影)。


ご意見・ご感想は、大学生協の個人情報保護方針にご同意の上、
下のボタンからお送りください。

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ