学生のこころとからだの安全のために、「いま」 できることとは…

新型コロナ後に確かな希望を見出す 大学生協最前線新型コロナ後に確かな希望を見出す 大学生協最前線

大学も、大学生協も、その使命として目指しているのは、学生一人一人がいかに健やかで満たされた大学生活を送ることができるか、です。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は、全国の大学組織にこれまでとは一線を画す、新たな対応の必要性を突き付けるものでした。
もちろん、島根大学でもそれは同じ。学生や教職員を守るべくさまざまな対応に迫られてきました。
一方で、with コロナ・after コロナを見据えた、新たな価値観の提示、確かな希望が見出せたことも…。
このレポートでは、そんな島根大学と島根大学生協の取り組みについて紹介します。

島根大学

実践対策レポート/島根大学編

[島根大学プロフィール]

島根大学は、知と文化の拠点として培った伝統と精神を重んじ、「地域に根ざし、地域社会から世界に発信する個性輝く大学」を目指すとともに、学生・教職員の協同のもと、学生が育ち、学生とともに育つ大学づくりを推進しています。

  • 大学の地域貢献度ランキング2019 第4位
    (日本経済新聞社発行『日経グローカル(2019年10月2日)』より)
  • 科研費に対して論文数が多い国立大学 第2位
    (木村誠著『大学大崩壊:リストラされる国立大、見捨てられる私立大』
    (2018年11月30日発行)より)
  • 実は研究力のある国立大学 第3位
    (週刊東洋経済(2018年2月10日)より)


島根大学は持続的可能な開発目標(SDGs)を支援しています。

  • 学部:
    法文学部、教育学部、人間科学部、医学部、総合理工学部、生物資源科学部
  • 学生数:
    5,239名
  • 所在地:
    〒690-0823 島根県松江市西川津町1060
  • キャンパス:
    松江キャンパス(島根県松江市)・
    出雲キャンパス(島根県出雲市)

令和2年5月1日現在

1.感染拡大を防止するため
教職員が一丸となって対応

島根大学に、学長を座長とした「新型コロナウイルス感染症対策本部」が設置されたのは3月16日。当初は状況を正しく把握するのも大変だったといいますが、行動指針等に基づく感染対策の実施は比較的迅速に行われたといえるのではないでしょうか。例えば、「3密」を避ける行動、手洗いやマスク着用の徹底、人との距離を保つなど「新しい生活様式」の励行はもちろん、大学構内への立ち入り制限やオンライン授業の実施など、学生・教職員全ての構成員の健康を最優先するとともに、学生の学びの機会を確保するためのさまざまな方策が次々と打ち出されました。誰も経験したことのない未曽有の災禍でありながら、ここまで落ち着いた対応がなされたことは、当時県内に感染者が少なかったことも大きな要因といえるかもしれません。


感染予防の注意事項を
サイネージ告知

2.新型コロナウイルス対策を
牽引する保健管理センター

島大生たちのこころとからだの健康の維持・向上を担っているのは、「保健管理センター」、いわば大学の「保健室」ともいえる場所です。学生が健やかな大学生活を送れるように専門スタッフ(医師、保健師、臨床心理士)がいつでも相談に応じています。今回の新型コロナウイルス感染防止対策においても大きな役割を担いました。「世界中に感染が広がり、いつ誰が感染してもおかしくないこの状況では、不安や悲しみ、困惑、恐怖、怒りを感じることは、自然な反応です」と同センターの河野美江教授。「特に、新入生は、大学生にはなったが大学生活が始まっている気がしない、と感じている学生が増えています。指導教員の先生方には、学生の様子を確認していただき、少しでも気になる学生がいたら連絡を頂けるようお願いしています」。また、同センターではオンライン相談を開設し、専門のカウンセラーが実際に学生の顔を見ながらさまざまな相談に応えています。河野教授は、「対人不安の強い学生の場合は、オンラインの方がラク、という学生も少なくない。第二波、第三波への備えも含めて、学生のこころとからだの不調をいち早く見つけ出すための備えが重要です」とおっしゃいます。


保健管理センターの
河野美江教授


オンラインカウンセリング

3.リアルな世界とのバランスで
模索する学びの新しいカタチ

一方、学びの面では、5月7日からオンラインでの授業が始まりました。「新型コロナウイルス感染症対策本部」でオンライン授業が決まり、実施されるまでの期間は約1カ月。つまり、先生方は通常では考えられないような短期間で、オンライン授業向けのカリキュラムをつくり上げる必要に迫られていた、というわけです。「1コマ100分のオンライン授業を作成するには、実質的に200~300分に相当する時間と労力がかかります。しかし、先生方のご努力もあり、大変クオリティの高い授業をつくり上げることができたと思っています」と教育学部の松本一郎教授はおっしゃいます。しかし、全ての授業がオンラインに置き換えられるわけではありません。「理論知については、オンライン授業で賄うことができます。問題は、実際に体験することでしか身に付かない経験知をいかに担保していくか、です。これからは、サイバーな空間での学びを踏まえながら、リアルな世界での活動のクオリティを向上させ、バランスをとっていく必要があると考えています」。リモート環境だけでは醸成が難しい経験や共感、信頼…、after コロナを見据えた新たな学びのヒントは、この辺りにあるのかもしれません。


オンライン授業


教育学部の松本一郎教授


生協運営の食堂「sogno(ソーニョ)」


学生証一体型の生協電子マネーとミールプランでキャッシュレス


アイコンイラストがかわいい出食カウンター


手指消毒や咳エチケットなどの励行


テーブルはスタッフがこまめに消毒


ソーシャルディスタンスを意識し
席数も削減


テーブル上に役立つ情報を告知

4. 新型コロナが再認識させた
大学生協の果たすべき役割

構内への立ち入り制限やオンライン授業の実施によって、通学する学生数は大幅に減りましたが、中には帰省することなく松江・出雲にとどまる学生や、自室にIT環境が整わずPCのある大学に通学する学生もいます。こうした学生たちを支える上で、まず基本となるのは「食」です。通常の約2~3割程度しか利用はありませんが、大学生協では彼らのために万全の感染対策を施した食堂営業を行っています。もちろん、採算は度外視。大学生協としての使命があればこそできることといえます。また、コロナ禍にあって注目を集めたのが、大学生協がお届けしている「学びと体験・出発(たびだち)講座」「英語・コミュニケーション講座」「公務員試験対策講座」などの学びのステージ。オンライン授業を補完する将来への備えとしての評価が、受講する学生数の増加につながったようです。今後は、IT環境を備えたマンション・アパートの確保はもちろん、授業以外の学びのさらなる充実、My coop+ などのオリジナルアプリによるタイムリーな情報発信にも力を入れていく、とのこと。新型コロナの感染拡大は多くの犠牲をもたらしましたが、改めて大学生協の役割を強く認識するに至る出来事でもありました。


左から新入生サポートスタッフの中川雄貴さん(生物資源科学部3年)、吉田朱里さん(総合理工学部4年)、三島銑侍さん(総合理工学部4年)


左から島根大学生協の代 杏莉さん(松江ショップ)、原田涼平さん(本部担当)、吉岡尚哉さん(住まい事業部)


左から島根大学生協の栗山保夫専務理事、松江ショップの吉谷淳店長

時に自分たちの無力さにむなしくなったり、時に喜びの笑顔に励まされたり。災禍をもたらす一方で、大学が、大学生協が「いま、何ができるのかを真摯に考えること」の大切さを改めて教えてくれた新型コロナウイルス。学生のこころとからだのために、いま、できること。それを突き詰めることは、まさにafterコロナにおける新しい日常【New Normal】を追求するという行為と同じといえるのかもしれません。

2020年7月6日取材・撮影


CONTENTS

【特 集】
学生のこころとからだの安全のために、
「いま」できることとは…

~コロナ禍に挑む大学改革~

Close up Data 最近の注目データ/学生は「いま」何に困っている?