篠木 和久(講談社ブルーバックス編集長)
本文に登場したブルーバックス「宇宙」の本
みなさん、ブルーバックスという科学新書のレーベルをご存知ですか。じつはけっこう歴史があって創刊は1963年。鉄腕アトムのTVアニメが放送開始したのもこの年です。創刊当初から宇宙は人気のテーマで、それは今でも連綿と続いています。今50代の私が中学生のとき最初に読んだブルーバックスも『火星のすべて』(現在は絶版)でした。ちなみに、シリーズのシンボルマークも火星人です。
そんなブルーバックスから、おすすめの「宇宙もの」をご紹介します。1冊目は『宇宙の始まりに何が起きたのか』(杉山直著)。この宇宙は138億年前にビッグバンと呼ばれる超高温状態の爆発から始まりましたが、その後どんどんと冷えていき、現在は絶対温度3K(摂氏マイナス270度)と考えられています。しかし宇宙の初期の状態は「宇宙背景放射」として今でも全天で観測できます。そこから宇宙の始まりをひもといたのが本書です。
地球に生命が誕生したのはおよそ40億年前。宇宙誕生から100億年後です。ならば地球以外にも生命を宿す星はあるのだろうか。誰もが一度は抱く疑問だと思います。それに答えるのが『地球は特別な惑星か?』(成田憲保著)。太陽系以外の惑星を系外惑星と言いますが、1995年に初めて発見されて以来、これまでに4000個ほどの系外惑星が見つかっています。はたしてその中に生命の星はあるのでしょうか。広い宇宙には、きっと我々と同じような知的生命が存在すると信じたいですよね。
では、本当にそんな知的生命がいたとしたら? 『宇宙人と出会う前に読む本』は、宇宙人と話をするのに必要な教養、という切り口で、宇宙の基礎知識を楽しく紹介しています。地球や太陽系は、ひょっとしたら宇宙の中ではかなり珍しいタイプかもしれません。というのも、たとえば夜空に輝く星(恒星)のなんと半分は連星。北極星は一つの星ではなく、本当は三重連星であることがわかっています。『連星からみた宇宙』(鳴沢真也著)で詳しく解説していますが、星は太陽のように単独で存在するのが当たり前と思ったら間違いなんですね。
恒星といえば、ある種の恒星はその生涯の最後にブラックホールになることがわかっています。『巨大ブラックホールの謎』は、すべてを飲み込む「時空の穴」とも言われるブラックホールの最新知見を紹介しています。
このブラックホールが衝突したときのエネルギーで生まれると考えられるのが重力波です。それまで理論上の予想でしかなかった重力波が、2015年に初めて観測され、新聞の1面を賑わせたことを覚えている方も多いでしょう。『重力波で見える宇宙のはじまり』(ピエール・ビネトリュイ著)では、重力波の観測が宇宙解明にどれだけ重要か詳しく解説しています。
重力波を含め、電磁波やさまざまな信号を観測することでわかった最新の宇宙を紹介したのが『マルチメッセンジャー天文学が捉えた新しい宇宙の姿』(田中雅臣著)。
今の宇宙は、星や星間ガスなど見えている物質はじつは全体の5%しかなく、残りの質量の正体がわかっていません。そのうちのひとつ、全体の27%を占めるダークマター(見えない暗い物質、という意味)について解説したのが『見えない宇宙の正体』(鈴木洋一郎著)。さらに残りの68%は何かというと、これまた正体不明のダークエネルギー。現在、宇宙は加速膨張しているとされていますが、その原動力がこのダークエネルギーではないかと考えられています。
そうなると、こんな疑問が浮かんできませんか。なぜ我々の宇宙はこのような状態で存在するのか、なぜこのような絶妙な物理法則の上に成り立つのか。最先端の科学者も同じ問いに挑み続けていて、現時点での答えを最新知見からわかりやすく描いたのが次の3冊です。書名を一文に連ねて紹介しましょう。ある意味『不自然な宇宙』(須藤靖著)であるこの『宇宙は本当にひとつなのか』(村山斉著)、そもそも『なぜ宇宙は存在するのか』(野村泰紀著)。気が遠くなるほどの広大な宇宙の謎なのに、それは我々一人一人の存在理由にもつながる根源的なテーマなんですね。
さて、宇宙の始まりと現在の姿を取り上げたので、最後に宇宙の終わりについても触れておきましょう。『宇宙の「果て」になにがあるのか』(戸谷友則著)、『宇宙に「終わり」はあるのか』(吉田伸夫著)はともに、宇宙の時間と空間に終わりはあるのか、に迫っています。時間の終わりとは、すなわち宇宙の終焉ですね。でもご安心ください。終わりがあるとしても、少なくとも10の100乗年後より先だそうです。
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