いずみ委員 ファンタジーを読む

特集「異世界へのとびら」記事一覧

 

『izumi』おなじみの読書日記企画。
今回は特集にあわせて『izumi』のメンバーがファンタジーの世界に浸りました。

 

春一番の嵐が襲う

『ICO—霧の城—』(宮部みゆき/講談社文庫)。中学生時代、本の表紙に惹かれこのゲームを知った。ゲームを基に小説って何??!と驚いた記憶が今でもある。ICOというゲームをするきっかけとなった本だ。実はこちらを先に読んでしまっていたので、ゲームをする時に宮部さんのICOの世界観から抜け出せなくて、その設定を飲み込んでプレイしていたような気がする。
 

宮部みゆき
『ICO 上・下』

講談社文庫/
本体(上)590円・(下)600円+税

雨が止み、寒さと再会

『ファンタジーが生まれるとき「魔女の宅急便」とわたし』(角野栄子/岩波ジュニア新書)。「魔女の宅急便」って、日本の童話作家さんが作ったお話なの?と思い、気になって手に取った。著者の角野さんは、少女であり母親であり作家であり、すごく好奇心旺盛で陽気な方だ。小さなときの記憶や移民生活での思い出が彼女の作品に一つ一つ大切にちりばめられている。私たちの生活の中にもファンタジーはそこここに潜んでいるのだ。角野さんのように私は子どもの頃の記憶ははっきり覚えてないが、そのうっすらとした記憶も大切にしていきたい。
 

角野栄子
『ファンタジーが生まれるとき』

岩波ジュニア新書/本体800円+税

車中でうとうと昼寝日和

『いつか、君へ——Girls』(ナツイチ製作委員会/集英社文庫)。私はこの本の中にある「ねむり姫の星」がたまらなく好きだ。王子やお姫様が出てきても、闘いもなければ悲劇、熱烈なラブシーンもない。異なる世界に生まれた男と女2人の物話だ。ファンタジーをあまり読んだことがない私にとって、生活感漂う描写や少しずつ形成されていく2人の信頼関係が愛おしい。建物も何もない、まっさらな世界に落された彼らのこれからが、何かの始まりであることを物語る。自分たちの世界を一から作っていく彼らの星は、私もどこかの世界へ連れていってくれるようで、何度も何度も読み返している。大好きな短編だ。
 

ナツイチ製作委員会
『いつか、君へ Girls』

集英社文庫/本体540円+税

(愛媛大学卒業 頼本奈波)
 

2月○日

「ジブリの映画、どれが好き?」
 寒風が吹く冬の夜を横目に、暖かなブックバーで久しぶりに会う友人と文学談義。壁一面の本棚を眺めていると、ジブリにまつわる新書を発見。『魔女宅』に『トトロ』とお気に入りを語りつくすと、話題は「落選」した映画の批評に。
 私「ああ、あれ映画館で観たんだけど、あんまり印象ないな、よく分かんなかったし」
 友人「何を言う! アレは原作と全然違うよ! 原作は面白い。読みなさい。はいこれ宿題ね」
 その勢いに負けて、あの本を読まねばと心の覚書が増えたのである。
 

2月×日

 何年ぶりだろうか、図書館の子どもの本コーナーに来た。お目当ては先日友人に課題図書指定された、『ゲド戦記』(アーシュラ・K.ル=グウィン〈清水真砂子=訳〉/岩波少年文庫)。なんと、6冊あるではないか。おばさんはシリーズ読む体力なんてもうないのよ……。とりあえず2冊「影との戦い」と「こわれた腕環」を借りてみよう。我ながら先が思いやられる。
 帰宅し、一作目「影との戦い」を開く。ん、これはわたしが映画館で観た話ではないぞ? しかし懐かしい感じがするぞ?
「ハリー・ポッター?」
 語弊があるが、一作目において主人公ゲド少年は魔法使い見習い。魔法学院の塀の中で、若気の至りかな、自らの「影」を呼び出してしまう。強大な魔力を持つその影と対峙するために、彼は一人で旅に出るのである。竜だの航海だのアドベンチャー満載の一方で「自らの影と対峙」というテーマには、児童書らしからぬ重みがある。 春休みまっただ中、廃人と化しつつある私も「お前の影はなんぞや」と自問自答しつつゲドの冒険を見守る。この本はちょっと自己嫌悪に陥ることを除けば、中毒性の塊である。ついつい一気読みしてしまった。いやぁ面白かった! 翌日も腕環をめぐる冒険で1日が潰れるとは考えもせず、幸福な眠りは訪れる。
 

アーシュラ・K.ル=グウィン
〈清水真砂子=訳〉
『ゲド戦記』

岩波少年文庫/
(1影との戦い)本体720円+税
(2こわれた腕環)本体680円+税
(3さいはての島へ)本体760円+税
(4帰還)本体760円+税
(5ドラゴンフライ)本体920円+税
(6アースシーの風) 本体760円+税

3月☆日

 当初の体力的心配を裏切り、ついに三作目「さいはての島へ」にたどり着いた。「こわれた腕環」以降、ゲド大先生はサブキャラなのだが、新キャラたちも一癖あって読み応えがある。また物語に埋もれてしまう前に……とりあえずこの航海のスポンサーに感謝しよう。そう、読めと命令してくれた友人である。持つべきものは本好きの友だ。

(東京大学4年 任冬桜)
 

桜が散る頃、ふと読み返したくなり…

 就職活動とは恐ろしいものである。決められた時間内にどれだけ早く文章を読んで、それを理解できるかという力を求められている。そのせいか『烏に単は似合わない』(阿部智里/文春文庫)を読み始めても、「早く読まなければならない」という気持ちに襲われてしまった。
 急き立てる気持ちばかりでは本は楽しめない。一度本を閉じ、ゆっくり深呼吸。
 もう一度ページを開いて読み始めた。しばらくすると、続きが気になってページをどんどんめくっている自分がいた。さっきとはまた違う意味で読むスピードが早くなる。
 舞台は「八咫烏」の世界。東西南北で領土が分かれており、それぞれの「家」を背負った4人の姫が若宮に選ばれるために登殿をする。
 複雑に絡み合うそれぞれの思惑。ファンタジーでありながらも、恋の切なさとか甘酸っぱさとか、きゅんきゅんする感じに悶絶♡ 最後まで読み「少女マンガに見せかけての大どんでん返し」にしばし放心(2回目読み返してもこうなった(笑))。
 就職活動の時期だからこそ、ファンタジーで現実逃避。最&高。
 

阿部智里
『烏に単は似合わない』

文春文庫/本体700円+税

電車がいつもより混んでいる中

 4月は電車通学にとって魔の時期である。満員電車による遅延はもはや当たり前で、おまけにホームにはいつも以上に人で溢れかえり、電車が来ているのにその電車には乗ることができず、もう一本待つことも。
 まぁそんな満員電車で読み始めたのが 『鴨川ホルモー』(万城目学/角川文庫)。
 主人公は大学1年生。懐かしいな。自分もそんな時代があったっけ。主人公は女の子に一目惚れして「京大青竜会」というサークルに入る。でもそこでやっていたのは小さな「オニ」を戦わせる「ホルモー」という少し変わった競技。このオニたちはレーズンで栄養を補給し、オニたちに指示を出す「オニ語」を使わなければならない。「カイマーシュル・ダイホーテェ、ド・ゲロンチョリー」という意味不明な言葉がページにあふれている。これでいて、本人たちは至って真剣。このギャップがたまらなく面白いのである。満員電車で笑いを必死に堪えてみたものの、隣のサラリーマンに奇異な目で見られてしまったから、続きは家で読もう。
 

万城目学
『鴨川ホルモー』

角川文庫/本体560円+税

(早稲田大学4年 田中美里)
 

 今回の特集は「ファンタジー」がテーマだが、私は普段ファンタジーをほとんど読まない。そもそもファンタジーって何?と思い、調べてみた。
〔ファンタジー(fantasy)〕
 空想小説。現実とは別の世界・時代などの舞台設定や、超自然的存在や生命体などといった登場人物の不可思議さに、物語の魅力を求めたもの。
(『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』より抜粋)
 つまり、私の好きな、超能力者が登場する『魔王』(伊坂幸太郎)も、狸や天狗が跋扈する『有頂天家族』(森見登美彦)もファンタジーに分類していいってことかと分かってほっとしたが、今回はあえて他の作品に注目してみようと思う。
 

3月中旬

 私がこれまで読んだ中で一番衝撃を受けたファンタジーは、筒井康隆さんの『旅のラゴス』(新潮文庫)だ。タイトルから分かるように、本書は主人公であるラゴスの旅物語である。ただしラゴスが旅するのは今現在私たちが生きているこの世界ではなく、突然高度な文明を失った代わりに人々が超能力を獲得しだした架空の世界だ。行く先々でラゴスは色んな人と出会い、様々な体験をする。集団転移や壁抜けなど、現実世界では100%不可能なこともする。
 初めて本書を読んだとき、目の前で奇想天外な手品をいくつも披露されているかのような気分になった。どうしたらこんな突拍子もないことを次から次へと思いつけるのだろう、と驚いた。今回この日記を書くにあたって再読してみたが、当時抱いた興奮や感動をそっくりそのまま追体験できた。さほど分厚くないが、読みごたえは充分すぎるくらいある。
 

筒井康隆
『旅のラゴス』

新潮文庫/本体520円+税

3月下旬

 長野まゆみさんの『よろづ春夏冬中』(文春文庫)には14編の短編が収められているが、そのうち半数以上の作品で不可思議なことが起こる。いつの間にか他人の体に入り込んでいたり、死んだはずの知人と会ったりするのだ。読んでいると自分まで深い霧の中に迷い込んでしまったかのような気分になる。
 ちなみに、本書はいわゆる耽美小説である。直接的な描写はないけれど、苦手な方はご注意を。
 

長野まゆみ
『よろづ春夏冬中』

文春文庫/本体457円+税

(奈良女子大学博士研究員 北岸靖子)
 

2月23日(金)夜闇にランプの灯

「図書館の魔法使い」は、一ノ谷にある「高い塔の図書館」の番人。国のご意見番を務め、魔法のように叡智を操る当代の魔女・マツリカは、「声」として言葉を操ることができない。そこに手話通訳として寄越されたのが少年・キリヒトで……。
『図書館の魔女』(高田大介/講談社)は、魔法の出てこないファンタジーだった。魔法がなくても、各国の歴史、政治状況からちょっとした街並みや食事風景まで緻密に描かれていて、読んでいる一ヶ月「もう一つの世界」に住んでいる気持ちだった。上下巻合わせて1500ページ。厚さに気後れするのがもったいないほど濃密な世界があって、次に誰を呼び込もうかとわくわくしている。
 

高田大介
『図書館の魔女 全四巻』

講談社文庫/
(第一巻)本体680円+税
(第二巻)本体780円+税
(第三巻)本体700円+税
(第四巻)本体1,000円+税

3月4日(日)曇りのち晴れのち雨のち…?

『ヒマワリ:unUtopial World』(林トモアキ/角川スニーカー文庫)の新刊を待つ間に、何を読むべきか。ぐーたら王子が開戦を避けるために知恵と口先で立ちまわる『ミスマルカ興国物語』か、ヒキオタニートと電子ウイルスの精霊が世界の覇権をかけたバトルロワイヤルに挑む『戦闘城塞マスラヲ』か、借金のカタに悪の組織のメイドにされた女子高生が魔王で聖女で魔族で勇者な世界に巻き込まれていく『お・り・が・み』か……ううん、と唸って『ばいおれんす☆まじかる』を手に取る。どれを読もうか迷う林トモアキさんの作品たちは、主人公が変わっても時代が飛んでも、同一世界の物語としてつながっているのが魅力の一つ。春休みを贅沢に使って、デビュー作から再読することにする。
※入門編にオススメなのは『マスラヲ』
 

4月13日(金)魔法日和の快晴!

 魔法は意外と「何でもアリ」じゃないことが多い。科学がそうであるように、魔法も独自の秩序に従って行使されるのだ。だから魔法が存在する世界でも謎解きは成立する。『虚構推理』も、『六花の勇者』も、『新本格魔法少女りすか』(西尾維新/講談社ノベルス)も、魔法という秩序があるからこその謎解きの面白さを教えてくれた作品だった。
『新本格魔法少女りすか』はファンタジーでミステリーであると同時、ジュブナイルでもある。魔法使いの水倉りすかと、「魔法使い」使いを自称する供犠創貴(二人とも小学5年生)が、りすかの父親である水倉神檎を追いながら悪い魔法使いと戦っていく様子はまさしく冒険で、二人がコンビとして成長していくのが愛おしい。次巻完結を待つこと十年。二人の成長の決着がどうつくのか、ずっと楽しみにしている。
 

西尾維新
『新本格魔法少女りすか 』

講談社ノベルス/本体880円+税

(広島大学大学院 杉田佳凜)
 

春の気配がない春休みの日

 この世界に私ひとり。と考えてしまうぐらい構内を歩く人影はなく、気配もない、春休み中の大学。その上、細かい雪がちらちら、視界をうめつくす量で降りてくる。時が止まっているようで止まっていないことを、この悪天候が証明しているのだ。図書館のフリースペースの大きなガラス窓から、スノードームのようなその光景を眺める私は、20分間をどのようにつぶすかを考えていた。全く人のいない大学に、少し早めの卒論の相談をしに来ていた。私の担当の先生にメールでアポをとる時、「いつでもいいですよ」と軽い返事が返ってきたので、本当か? と疑ってはいた。実際、行ってみたら先生は自作のお弁当を食べているところで、やっぱり「いつでも」ではないなと、内心理不尽な持論をだした。ということで、20分後にきてくださいと言われて今に至る。生協に行くにも、図書館の蔵書巡りに行くにも微妙すぎるこの時間には、本を読むしかない。『はてしない物語』(ミヒャエル・エンデ/岩波少年文庫)を手に取り、開く。ふと腕時計が目に入る。あ、悶々してる間に20分過ぎてる。
 

ミヒャエル・エンデ
〈上田真而子・佐藤真理子=訳〉
『はてしない物語 上・下』

岩波少年文庫/
上巻 本体760円+税
下巻 本体840円+税

連絡待ちの一日

『黄金の壺』(ホフマン/岩波文庫)、「近代のおとぎ話」というサブタイトルに納得する、ふしぎな世界観の作品だった。主人公が鈴のような声をした蛇に一目惚れをすることから物語は始まる。美しいその蛇の父が火の精サラマンダーなのだが……。この時点でごたごたの世界観かと思いきや、事件あり、バトルありの恋愛ファンタジーである。ちなみに、この作品もドイツ作家の著書で、私は最近ドイツのものばかり読んでいる。それというのも、私が考えている卒論のテーマは、恋愛ドイツ文学中心のものか、少女漫画メインのものでいくかのどちらか。自分自身の中でここまでの結論がでたので、ひとまずその旨をメールにまとめて送ったのだ。先生はどう思うだろう、こんなことは無理だと真っ向から否定されるだろうか、それともこれは厳しいとやんわり押しのけられるだろうか。返信がこないと、嫌にいろいろなことをぐるぐる考えてしまう。その時メール受信の機械音が聞こえ、私はすぐに通知をひらく。「どちらも面白そうですね」、私は拍子抜けして画面を見つめた。
 

ホフマン〈神品芳夫=訳〉
『黄金の壺』

岩波文庫/本体540円+税

(東北学院大学 母里真奈美)
 

 

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